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[全文公開] アングル イギリスの納税者権利救済制度

 税理士 川田 剛

( 83頁)

▶はじめに

納税者の権利救済機関として多くの国で第一段階で採用されているのが、行政レベルにおける不服審査制度である。

ちなみに、「訴願前置主義」が採用されている。

わが国では、国税不服審判所がその機能を果たしている (注)

(注)現在では独立した司法機関となっている米国の「租税裁判所(Tax Court)も、かつては行政庁の一部となっていた。

英国においてもわが国の国税不服審判所に似た権利救済機関が設けられている。

▶英国のFTT制度

英国において、わが国の国税不服審判所と類似した機能を果たしているのが「First-tier Tribunal(略称FTT)」という名で知られる組織である。

この組織は、歳入関税庁(HMRC)の付属機関とされてはいるものの、高度の独立性を有している。

その点でわが国の国税不服審判所に近い。

しかし、わが国のそれと異なっている点もある。

最大の相違点は、FTTで課税庁(HMRC)が敗訴になった場合、課税庁は日本でいう地方裁判所に相当する高等裁判所(High court)への提訴が認められているという点である。

▶課税庁側敗訴の場合

周知のように、わが国の国税不服審判所で当局の課税処分が取り消された場合、その裁決結果に課税庁は拘束されることとなっている( 通則法102 ①)。

そのため、課税庁側としては、たとえ裁決の内容に不満があったとしても、どこにも申立てをすることができない。

それに対し、英国のFTT制度においては、そこ(FTT)での判断にHMRCが不服だったときは、課税庁側からも訴訟提起が可能なシステムとなっている。

現に、例えば「ブラックロック事件」(2020年11月)では、同社が行っていた短期ローンの金利(2.2%、4.6%、5.2%、6.6%)が高すぎるとしてなされたHMRCの課税処分がFTTで取り消された。しかし、HMRC側は、この裁決に異をとなえて、「裁判所(High court)」に提訴している。

そして、この事件を審理した裁判所は、HMRC側の主張を認め、FTTによる裁決を取り消す判決を下している。

▶あとがき

前述したように、わが国の場合、裁決結果は課税庁を拘束することとされているため、審判官が判断に迷ったような場合、課税庁の処分を取り消す裁決を下すことにやや躊躇する傾向があるとの指摘もなされている。

納税者の権利救済制度の健全な発展のためには、英国のFTTにおけるように、納税者のみならず課税庁側にも提訴権を認めるべきと考えるが如何なものであろうか。