2026/06/19 9:55





人事部の皆さん、毎日の業務お疲れさまです。このシリーズでは、給与計算を担当する方々向けに、国際税務の一環としての非居住者に支払う給与の課税や源泉徴収の基礎的な考え方や取扱いをテーマにして、簡潔に説明していきます。
前回までは、海外子会社に1年以上出向して「非居住者」となる社員さんの給与の課税について見てきました。しかし、会社の海外拠点は子会社だけとは限りません。海外支店や駐在員事務所もあります。そして、海外拠点の種類によって、給与が同じように支払われても日本での課税方法が異なる場合があります。今回は、海外での駐在先の違いによる課税の違いを見ていきます。
まずは復習です。海外に駐在する社員に支払われる給与が、日本で課税対象になるのは次の場合です(第2回参照)。
税法用語では(A)を非居住者、(B)を国内源泉所得といいます。この原則的な課税は、日本から支払われる給与でも、国外の拠点が支払う給与でも同じです。
そして、前回まで見てきた海外子会社の場合には、課税や納税の方法は次のとおりです(第3回参照)。
ところが、この課税や納税の方法が、支払者が海外子会社ではなく海外支店や駐在員事務所の場合には、違ってくるのです。
ここで国際税務の最重要単語のひとつ、PEの登場です。
通常、皆さんが自社の海外拠点の話をするときに、それが「現地国の法律に基づいて設立された法人」なのか、それとも「日本の会社の一部分としての支店や駐在員事務所」なのかを意識することはほとんどないと思います。
しかし税法は、日本の会社の延長(一部分)である海外の事業拠点をPEと呼んで、海外子会社とは厳密に区別しています。それには法人税法上の理由があるのですが、ここでは省略します。
そして、PEと海外子会社では、非居住者の駐在員に国内源泉所得に該当する給与を支払う場合の、日本での課税方法も異なってきます。ですから、人事部給与チームにとっても、支払者が海外子会社かPEかを分けて考えることが重要になるのです。
PE(ピーイー)とは「Permanent Establishment 恒久的施設」のことで、基本的には日本の会社が事業を行うために外国に設置する物理的な拠点を意味します。すなわち、PEは日本の会社の一部分なのです。外国の法律に基づいて外国で設立された子会社は、たとえ日本からの100%出資でも外国法人であって、PEではありません。
また、海外に「駐在員事務所」を持っている企業も多いと思います。一般的には、情報収集だけしかしない駐在員事務所は、PEに含まれないことになっています。しかし、日本の会社の一部分だという点ではPEと同じです。そのため、そこで働く駐在員(非居住者)に支払う給与の課税の取扱いはPEと場合と変わりませんので、以下ではまとめて「PE等」と記載します。
ここからが本題です。海外子会社とPE等では、国内源泉所得となる給与を支給した場合の日本での納税方法が、下の表のとおり異なります。PE等の欄に注目してください。
日本の親会社や本店が支払う給与については、どちらも同じ源泉徴収です。しかし、海外拠点が支払う給与に関しては、大きな違いがあります。
租税条約の短期滞在者免税には3つの要件があり、その2つめに、「給与の支払者が日本法人ではないこと」という要件がありました(第5回参照)。これをもう少し細かくいうと、「給与が日本法人ではない雇用者から支払われること」という内容になっています。海外子会社は日本法人(内国法人)ではないので、海外子会社が支払う給与はこの要件を満たします。
しかし、PE等は日本法人そのものなので、PE等が支払う給与はこの要件を満たしません。したがって、PE等に駐在する非居住者の社員には、残念ただし、ながら短期滞在者免税が適用されないのです。
そして、ここでさらにもうひとひねりあります。PE等が支給する給与には「国内におけるみなし支払い」という独特のルールがあるのです。
海外子会社が現地国で支払う給与に国内源泉所得の部分があっても、日本では源泉徴収ができないので、その代わりに社員自身が申告納税をすることになっています(第3回参照)。
しかし、海外拠点であってもPE等が国内源泉所得に該当する給与を支払うときには、その金額を日本で支払がされたものとみなして、日本本店がPE等に代わって源泉徴収をしなければならないことになっています。日本で払ってもいないのに、源泉徴収だけをして日本に納税するのです。
海外拠点の種類については人事部の守備範囲ではないかもしれませんが、課税上重要なことですので、必要があれば税務グループや経理部に確認してください。
この関係をまとめると次のようになります。海外子会社とPE等の駐在員に、一時的な日本勤務に対応する給与(国内源泉所得)が発生したときの、日本の課税関係です。

なお、この「みなし支払」の源泉徴収税額の納付期限は、PE等が支払いをした日の「翌月末日」になります。通常の源泉徴収の納付期限は翌月10日ですので、少し遅めになってはいます。納付書は支給月ごとに、他の納付書とは別に作成して、備考欄に「所得税法第212条第2項該当分」と記載します。
次回(第7回)では、これまで見てきた非居住者社員の給与の課税や源泉徴収について、先のコロナ禍の「一時退避帰国」のケースを材料にして整理します。後半に突入する「人事部のための国際税務」シリーズを、どうぞお楽しみに!
全12回のうち第1回~第6回までの記事について、税務サイトでも公開いたしました。なお第7回目以降の記事は「国際税務会員のみ」が閲覧可能となります。下記より資料請求いただきまして入会をご検討いただければ幸いです。