金融会計の論点シリーズNo.1 自己株式取引の財務戦略と会計

フジタ国際会計コンサルティング(株) 代表 藤田敬司

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財務戦略に組込まれる自己株式取引

自社が発行した株式を自社が市場で取得する取引は,大きく分けて2つある。①発行会社は正式に株主総会決議や株主との事前取り決めに基づいて市場取引・公開買付けで取得し消却する( 会社法156条 等参照)。バブル期に増えすぎた資本金,事業縮小等で過剰になった資本金を減らす目的で使われる。②分配可能利益の範囲内で取得し,消却することなく「金庫株」(treasury stock)として保有し再発行する( 会社法461条 等参照)。自己株式の取得と処分取引をここでは便宜「自己株式取引」と呼ぶが,かつては原始取得すら禁止されていた自己株式取引が企業の財務戦略に使えるように規制緩和がかなり進んでいる。

しかし,自己株式の取得・処分取引は株価操作につながり易い。株価が低迷しているときは買戻せば,財務構造や収益力に改善がみられなくても株価は上昇し,高騰しているときに再発行すれば冷却させる可能性もある。わが国の金融商品取引法は,そのため自己株式取引に厳しい報告義務を課している。それでも平成13年に新株予約権制度が導入されたころからストックオプションの行使に応えるために「金庫株」として保有...