東芝事件から何を学ぶか 第3回「内部統制」

青山学院大学大学院 教授 町田 祥弘
関西大学大学院 教授 松本 祥尚

( 34頁)

1.何が問題だったのか

(1) 内部統制の固有の限界

東芝の第三者委員会の調査報告書は,歴代経営者からの,「チャレンジ」に代表される業績目標達成への過度なプレッシャーを強調する一方で,不正な財務報告を防ぐことができなかったとして,東芝における内部統制の問題点を指摘している。本稿では,その問題を取り上げたい。

それに先立って指摘しておきたいことは,調査報告書が内部統制の問題を強調することには若干の違和感が残る,という点である。たしかに,東芝の内部統制には,問題があったのであろう。しかしながら,内部統制は経営者が構築するものである。経営者が不正--すなわち,意図的な粉飾決算を先導していたのだとすれば,内部統制のみでそれを防止することは不可能といえる。経営者は,ほとんどの場合,その権限を使って,内部統制を逸脱することが可能だからである。「内部統制に問題があった」という総括の仕方は,言外に,誤謬(財務諸表の意図的でない虚偽表示)とは言わないまでも,あくまでも担当者,従業員のレベルにおいて,経営者からの過度なプレッシャーに抗しかねて「不適切な会計処理」が行われてしまい,それを防ぐような仕組みがなかった...