アクルーアルと「利益の質」 -東芝不正決算によせて-

駒澤大学 教授 石川純治

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東芝の巨額の会計不祥事(不正決算)を機に市場関係者で一気に注目されているキーワードがある(7月23日付「日本経済新聞」)。一般には耳慣れないが,「アクルーアル」である。

その焦点は,「利益の質」にある。あたかも人に生活の質が問われるように,企業にあっては利益の質が問われるわけで,今回の東芝問題の発覚は,その点をあらためてあぶり出したといえる。

アクルーアルとは ‐発生主義会計の裁量性,宿命性

会計学のテキストでは,アクルーアル(accrual)はおなじみの「発生」あるいは「発生主義」のことである。利益計算(期間損益計算)の中核にあるもので,通常「現金主義」との対応概念として説明される。

それは,典型的には「企業会計原則」の最重要箇所(発生主義の原則),すなわち「すべての費用及び収益は,その 支出 及び 収入 に基づいて計上し,その 発生した 期間に 正しく割当てられる ように処理しなければならない」(損益計算書原則1A,傍点は引用者)に明確に規定されている

しかし,ここでの「アクルーアル」は,会計上の利益とキャッシュフロー(現金収支)との差額とされている。筆者はもう20年前になるが,かつてこの差額を「ギャッ...