シリーズ「学生と語る会計基準」 西川教授のポイントレッスン! 第12回 金融負債の測定と金融資産の減損

慶應義塾大学商学部 教授 西川郁生

( 28頁)

金融負債の公正価値測定とパラドックス

木村太一君 今回は金融商品の続きですね。

教授 前回は保有株式と保有債券について考えましたが,今回は金融負債の測定について考えたいと思います。

木村君 日本基準では償却原価法,IFRSも同様ですが,IFRSにはFVオプションがあるという理解でいいですか?

教授 そうですね。FVオプションは主に会計上のミスマッチを解消したい場合に任意に適用できます。ただ,負債を公正価値測定するといわゆる負債のパラドックスの問題が生じます。企業の信用リスクが高まる(格付けが下がる,信用力が下落する)とその企業の発行債券の価値が下ります。発行企業にとって債券(金融負債)が以前より低く評価(負債の減少)され,企業に利益が生じるというパラドックスですね。

木村君 利益の発生は納得しにくい話ですね。

教授この利益は悪い利益だから別扱いしようとしても会計のメカニズムの中では利益の一部に悪のレッテルを貼るのは難しいですね。ずっと言い続けていますが,利益は短期的には現金の増加と切り離された抽象的な数字です。利益額が大きいのはいいことと思っているのに,その中に悪い利益が混在するということは,仕方ないでは済...