私の会計史 theme2 ブラッセルで体験した為替変動会計(2)

  藤田敬司

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固定為替相場制の崩壊

ブラッセル勤務3年目の1971年の春,西独の外貨準備残高は,米国のそれを上回り,ベトナム戦争にのめり込んでドルを垂れ流していた米国は,5億ドルの経常収支赤字に転落したことが大きな話題となった。

本店やロンドンからの出張者に同行して,スイス・バーゼルの国際決済銀行(BIS)まで情報収集に行ったこともあるが,固定相場が変動相場に変わるかどうかといった確かな予測をそう容易に聞けるわけがない。そうこうしているうちに,ベルギー・フランは隣国の弱いフレンチ・フランよりも,強いドイツ・マルクにつられて強含みになり,国際金融市場は急速に不安定になってきた。ブラッセルに進出していた外国企業の間では「リーズ&ラッグ」という言葉が流行し始めた。$債権は早めに回収する(lead),$債務の返済はできるだけ遅らせる(lag),結果としてリスクエクスポージャーを最小化しようというわけだ。

前回述べたように,輸入契約を持つ日本企業は,元々標準決済期限ぎりぎりまで$債務決済を遅らせていたが,今度は大口の輸出契約を持つ親会社は,ファイナンス・スイッチができる海外現法の仲介機能を活用して,$借入による前渡...