収益認識基準公開草案の検討 財務諸表作成者の問題意識と実務対応 企業編 三菱地所株式会社

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企業会計基準委員会(ASBJ)は7月20日に企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等を公表し,現在意見募集に寄せられたコメントへの対応を行っている。本公開草案を財務諸表作成者はどのように受け止めているのか。これまで本誌では,ASBJに意見書を提出した業界団体にインタビューを実施してきた。今回は企業編として,三菱地所株式会社経理部の蔵方律氏(専任部長,会計ユニット ユニットリーダー)と井上洋和氏(会計ユニット統括)に,現時点で認識している問題意識や実務対応について,お話をきいた。

1.公開草案について

――今回の草案についての全体的な評価をお聞かせください。

収益認識に関する会計基準は,損益計算書のトップラインを決めるという意味で非常に重要だと思っています。基準案はIFRS15号の定めを基本的に全て取り入れるという方針に基づいており,実現主義の原則に基づく現行の取扱いとは大きく異なります。ただこれは,この新基準を作る動機あるいは目的であったと考えられる「国際的な財務諸表の比較可能性を高めること」に寄与するものと考えています。

立場によっても受け止め方が異なると思いますが,例えば投資家やアナリストにとって,財務諸表の比較可能性や理解可能性等が高まることは望ましく,歓迎されるのではないでしょうか。会計監査という観点でも,収益認識に関する基準が統一されること,そして事例豊富なIFRS15号を参考にできること等から,好意的に受け止められているのではないかと考えています。

財務諸表を作成する企業サイドからみると,公開草案の内容について,当社も含めた不動産業界としては総じて冷静に受け止めていると感じています。同じ不動産業でも各社ビジネスモデルが異なりますので推察の域を超えませんが,各社と情報交換をしてきた中で感じることは,草案の公表前に注目を集めていた「リース」や「契約コスト」などが新基準適用範囲外であること,そして,重要性等に関する代替的な取扱いが設けられたこと等が評価されているといった印象です。

――「契約コスト」について教えてください。

例えばマンション分譲事業では,販売に先立ちモデルルーム設置費用や広告宣伝費用などが発生することがあります。これら契約コストの開示の重要度は,例えば開示情報をもとにマンション分譲事業会社の企業価値を開示時点で算出する必要のある投資家...