【座談会】アナリストの仕事と役割 第2回 有価証券報告書の使い方

エイピーエス・アセット・マネジメント 日本株主席投資責任者 河北 博光
野村アセットマネジメント 企業調査部部長 中熊 靖和
いちごアセットマネジメント 副社長 吉田 憲一郎
野村総合研究所 上級研究員 三井 千絵

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《編集部より》  本誌 No.3362・16頁 では,アナリストの方々が有価証券報告書をどのように活用しているか,どのように投資先を決定しているか等について,司会を含め4名の方に語って頂いた。アナリスト座談会の第2回となる今回は,新たに3名の参加者を迎え,資産運用にあたって企業の財務諸表のどの部分をどのように分析して,どのような決定を下しているのか,「セグメント開示」,「M&A」,「金融商品」,「開示のマテリアリティ」等の論点を中心に語って頂いた。

1.はじめに

三井(司会)  第1回では,セルサイドとバイサイドの役割や,主にPLに注目しているケースや,逆にBSに注目する投資があることをお話頂きました。今回は,財務諸表の詳細な部分をどんな時にどのように見てどう判断をしているかお伺いできればと思います。今の開示で問題と思われている点があれば,そういったご意見もお聞きしたいと思います。はじめに,自己紹介と,ご自身と有報の接点について少しお話頂けますか。

中熊  野村アセットマネジメントの中熊と申します。私が所属する会社は投資信託や年金を運用する極めてオーソドックスな資産運用会社で,私はそこで日本株を調査するアナリストをとりまとめる仕事をしています。

私は1987年に,当時は野村證券の調査部としての役割も担っていた野村総合研究所で電機のアナリストをさせてもらって以来,様々な形で企業の調査や分析に関わってきました。2010年から現在の仕事をしていますが,それ以前の10年余りは日本株のファンド・マネージャーをしていました。現在の主な仕事は組織の運営ですが,本日は元アナリスト,あるいは元ファンド・マネージャーとしてもっぱら発言させて頂きたいと思います。

当社の日本株運用は,主に割安さに注目するバリュー運用から,主に成長性に注目するグロース運用まで様々なタイプがあります。しかし,どのような運用でも財務分析は基本中の基本であり,有価証券報告書の重要性に変わりはないと思います。先ほどPLに注目する投資,BSに注目する投資があると仰っていましたが,私はどんな運用であろうとも財務3表の理解は不可欠だと思っています。

例えば,成長企業の中には資産を急速に膨らませながら成長する企業がありますが,このような企業に投資する時は,収入や利益の伸びと資産の伸びのバランスが取れているか,どのような資金調達をして資産の拡大を...