<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第12回 のれん(その5)

解説

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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のれんは資産か

二酸化マンガンという物質をご存知だろうか。文系の私は,中学の理科の実験で,消毒などに使われるオキシドールに二酸化マンガンを加えて酸素を発生させる実験をしたことしか覚えていない。ただ,その時に初めて習った言葉が「触媒」という言葉で,これはよく覚えている。触媒とは特定の化学反応の反応速度を促す物質で,自身は反応の前後で変化しないものをいう。オキシドールの主成分は過酸化水素水という物質で,安定している物質なのだが,二酸化マンガンに触れたとたんに激しく反応し,酸素と水素に分解される。その反応の過程で二酸化マンガンが費消されることはない。

触媒は英語でcatalystであるが,片仮名で書いたカタリストという言葉は金融用語でもあり,金融商品の相場を動かす材料という意味で使われる。カタリストは相場を動かすマーケット参加者の心理に影響を与えて,今まで安定していた価格を激しく反応させて一段階別の価格帯に移行させる。のれんとは,触媒を金銭価値として評価したようなものである。

このようなのれんが果たして会計上の資産と言えるのか,という...