不正事例に学ぶ子会社のリスク管理のポイント 第6回 海外M&Aと不正リスク

KPMG FAS パートナー 髙岡 俊文

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1.はじめに

昨今,海外企業を対象としてM&A(主に買収)を行った後に不正が発覚し,多額の損失が明らかになる事例が多発しています。M&Aは,事業の立上げにかかる時間を買うこと以外にも,自社にはない経営資源を得る事ができるなどの多くのメリットがあります。一方,「競合他社が買収してマーケットシェアを奪われる」,「今回の買収機会が最後でこのチャンスは二度と来ないのでは」といった焦りから,M&Aを推し進める強い力が働く場合があります。こうしたM&Aに対する強い推進力は,時として公正な判断力を鈍らせ,不正の兆候などネガティブな事実を看過させ,許容できないリスクをとることに繋がります。今回は,経理財務を担当されている方を対象として,海外M&Aの不正リスクに関して,多くの不正が発覚している背景に触れ,具体的な事例の紹介を通じて,デューデリジェンス(DD)の段階で如何にリスクをマネージするかについて説明します。

2.海外M&Aから不正が多く発覚する背景

① M&Aで買収対象となる企業

日本企業の最近の買収対象には,新興国企業が多く含まれます。新興国では,法令等の社会制度やインフラが追い付かないまま急速に経済が...