<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第19回 貨幣と会計(その4)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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ミセス・ワタナベ

筆者の友人に渡邊さんというお名前の方は何人かいらっしゃるが,全員妻帯者である。彼らの奥様方は皆さんミセス・ワタナベだと思うが,FX(為替証拠金取引)をやっておられるのかどうかは知らない。ただ,外国為替市場ではミセス・ワタナベは大変な有名人である。ミセス・ワタナベとは日本の主婦やサラリーマンなどの個人のFX投資家の総称である。近年その取引量が増え,為替市場に対してかなりの影響力を持つという。

ミセス・ワタナベの取引の大半は投機目的であるが,貿易立国の日本の多くの企業は,投機目的ではなく,本業の一部としてやむを得ず外国為替レート変動の影響を受けざるを得ない。当然のことながら,その外国為替レート変動の影響は財務諸表に反映される。しかし,その反映方法が適切で納得感のあるものかどうか,実は誰も正解を持っていない。

外貨建て取引,ないしは在外事業体(在外子会社など)の財務諸表の換算方法のあり方については,1973年に世界の多くの国が変動相場制に移行して以来,常に議論の対象になって来た。例えば著しい円高の際に,海外子会社の財務諸表が現地通貨建てでは黒字なのに,円に換算した連結決算上では赤...