「分析的手続」の会社実務への応用

 公認会計士・税理士 河合 健一
 公認会計士 河江 健史
 公認会計士・税理士 田村 亮人

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第1章 はじめに

不正調査においては,調査のきっかけとなった不祥事そのものを対象とする調査(いわゆる「本件調査」)と,類似案件の存否を対象とする調査(いわゆる「件外調査」)が行われる。調査を行う場合,本件調査は必須の調査としてイメージされやすいが,「他に同様の不祥事がないことを確認する」という視点で行う件外調査については,なかなかその実態および必要性が理解されないことが多い。一方で,会計不祥事では会計監査人から十分な件外調査の実施を求められることが多いことから,調査の初動段階で件外調査の内容についての擦り合わせをする必要性は高い。

不正調査で採用される調査手法は,不祥事そのものを評価する調査手法と,不祥事の疑義を評価する調査手法に大別できる。不祥事そのものを評価する調査手法とは,調査対象事実の内容を検証する,いわゆるシロクロをつけることを目的とした調査手法であり,関係者に対するヒアリングや書証の検証などが代表的である。一方で,不祥事の疑義を評価する調査手法とは,調査対象となりうる不祥事の端緒(の有無)を検討することを目的としており,アンケートの実施やホットラインの設置などが挙げられる。なお...