<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第31回 市場か倫理か(財務vs非財務)(その6)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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免罪符

世界史の受験勉強をしていた頃,宗教改革の歴史の説明の中に「免罪符」という言葉があって,大変興味を覚えた記憶がある。免罪符は,キリスト教会がイスラムから聖地を回復するために組織した十字軍に従軍したものに対して,教会が神に代わって罪の償いを認めること(贖宥:しょくゆう)を行ったのがその始まりと言われる。従軍できない者は寄進を行うことでこれに代えたことから,後に免罪符が金銭で販売されるようになり,教会の資金調達の手段となった。しかしそれは宗教の本質を歪めているとして宗教改革の動機になったという説明を聞いた。

気になる2つの兆候

環境問題を筆頭に持続可能な社会の構築は人類にとって喫緊の課題であり,一刻の猶予も許されない。関係者の努力によって,その機運がかつてないほど盛り上がり,持続可能な社会の構築について明確なビジョンを描けない企業は市場から淘汰される。あらゆるメディアがその点を強調し,企業サイドから世の中を変えていこうという強い決意を感じる。

しかし,私は今の状況を必ずしも手放しでは喜べない。理由は気になる二つの兆候があるからだ。一つは,皮肉な事ではあるが,開示の充実である。今はどの企業の企...