[連載対談]キーパーソンに訊く重要テーマ 第5回「監査上の主要な検討事項(KAM)の価値」

SMBC日興証券株式会社 株式調査部 Managing Directorシニアアナリスト 日本証券アナリスト協会 企業会計研究会委員(KAM WGメンバー) 大瀧 晃栄
青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 教授 町田 祥弘

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Ⅰ.ここが訊きたい

わが国では、2021年3月決算にかかる監査から監査報告書において「監査上の主要な検討事項」(Key Audit Matters: KAM)の記載が全面適用となった。本年(2023年)3月期は、全面適用から3年度目、早期適用から4年度目になる。

KAMは、「監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項」であり、監査報告書に、①KAMの内容、②KAMの決定理由及び③監査上の対応が記載される。

従来の監査報告書は、「短文式監査報告書」と呼ばれるように、監査意見だけが簡潔明瞭に記載されるものであった。監査報告書は、95%以上が無限定適正意見であり、いわば家電製品の保証書のようなものとみなされてきた。監査はブラックボックス化しており、会計不正事例が発覚した時に初めて「監査人は何をしていたのか」という批判が起き、その都度、監査規制が強化されてきたのである。

KAMが記載されるようになって、監査報告書は、分量も内容も大幅に拡充され、監査報告のパラダイムシフトが生じたとも言われている。

2018年改訂監査基準によれば、KAMの意義は、「監査人が実施した監査の透明性を向上...