新春対談 課題探求「分配規制」‐交錯する会計と法の視点‐

 慶應義塾大学客員教授 西川 郁生
中村・角田・松本法律事務所 パートナー弁護士 仁科 秀隆

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〈編集部より〉

昨年も、複数の上場会社において会社法の分配可能額規制(分配規制)への違反が生じていた。上場会社においてすら数年おきに繰り返される分配規制違反という論点について、誰が責任を負うのかという点も含めて、改めて注目が集まっている。

そこで本誌では、分配規制は財務会計の論点なのか法律の論点なのか、今一度、振り返り、整理や課題の提言が必要なのではないかという問題意識から、企業会計と企業法務の第一人者をお招きし、それぞれの立場からコメントしていただく対談を企画した。

1.会社法の建付け

(1)なぜ分配可能額は監査対象から外れた

編集部  まずは会社法の建付けについて仁科先生に伺います。そもそもの分配規制の趣旨ですが、これは債権者保護のために設けられているという理解でよいのでしょうか。

仁科  おっしゃる通りです。旧商法から会社法に変わる過程で、利益処分案が廃止されるなどの変更はありましたが、分配可能額の規制について、債権者保護(正確には債権者と株主との利益調整)のための規定であるという趣旨自体は変わっていないと思います。

編集部 利益処分案の廃止と株主資本等変動計算書の新設によって分配可能額が監査の対...