[連載対談]キーパーソンに訊く重要テーマ 第10回「株主・投資家との対話」

日本IR協議会 専務理事 佐藤 淑子
青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 教授 町田 祥弘

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Ⅰ.ここが訊きたい

近年、上場企業の決算報告は多様化・複雑化してきている。

報告の受け手である株主については、外国人投資家の保有比率が高まるとともに、政策保有株式の保有を抑制する方針の中で、個人株主比率の増加を含め、株主構成の多様化が一層進んできている。

また、株主・投資家等への報告チャネルも、事業報告や有価証券報告書だけでなく、統合報告書やサステナビリティ報告書、英文アニュアル・レポート、あるいは適時開示や企業のウェブサイトでの自発的開示等、様々なチャネルが用意されている。同時に、スチュワードシップ・コード(SSコード)やコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の公表を受けて、経営者と株主・投資家との直接の建設的な対話が促進される状況にある。

報告内容についても、従来の財務情報にとどまらず、非財務情報の重要性が増している。昨年(2023年)3月期の有価証券報告書から開始されたサステナビリティ情報の開示の他、昨年来、東京証券取引所によって「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が要請されるなど、上場企業はそうした新たな課題についても報告が求められている。まさに今や財務報告から「企業報告」(Corporate Reporting)への変革が図られているといえよう。

しかしながら、いかに充実した内容の企業報告が行われたとしても、それを適時かつ適切に株主・投資家に伝達し、理解を図らなければ意味がない。そうした株主・投資家とのコミュニケーションを図るのが、上場企業におけるIR(Investor Relations)活動である。

上場企業における株主・投資家対応の最前線にあって、わが国企業のIR活動をその黎明期から中心的に支えてきたのが、一般社団法人日本IR協議会(以下、IR協議会)である。

IR活動の広がりの中、IR部署に求められる機能も多様化してきており、IR協議会による支援や研修等の活動も高度化しているものと思われる。

IR協議会専務理事の佐藤淑子氏をお迎えして、SSコード及びCGコードの公表から10年を経て、またコロナ禍を経て、企業と株主・投資家のコミュニケーションはどのように変わってきたのか、企業報告が内容の拡充とともに、報告チャネルを多様化する中で、今後のIR活動はどのような展開を見せていくのか――について訊いてみたい。

(町田祥弘)

Ⅱ.対談

1.背景

町田祥弘氏(以下...