<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第107回 概念フレームワーク(23)

―認識及び認識の中止(1)―

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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認識不足

「それは君の認識不足だよ」と上司から言われた経験はおありだろうか。これはかなり厳しい叱責である。君の認識不足という言葉の言外には、強い否定の意図が込められている。要すれば、一から出直してこい、と言っているのだ。

このような厳しい言葉を受けて、はっと目が覚めたように、今まで気づいていなかった世界が見えてくる場合もある。自分は今までなんとレベルの低い思い違いをしていたのだろうかと悔やみ、反省し、心機一転大活躍ができる可能性が見えてくる。

このことから、認識不足という言葉は自己防衛のために使える便利な言葉にもなっている。たとえば、「私の認識不足でした」とか「これからは認識を改めます」といった表現を使うことによって、失礼や失敗があったのは認識不足があったからであって、認識を改めれば違ったパフォーマンスができますよというアピールの道具としても使われる。ただ、この言葉を多用し過ぎると、かえって信用を失うというデータもあるそうだ。

そもそも認識とは、「基本的には哲学の概念で、主体あるいは主観が対象を明確に把握すること」(2024年2月13日(火)13:41 UTC、『ウィキペディア日本語版』)であ...