<INTERVIEW>IASB理事に聞く~公開草案「財務諸表における気候関連およびその他の不確実性」の読み解き方

国際会計基準審議会(IASB) 理事 鈴木 理加
 [聞き手]公認会計士 中田 清穂

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国際会計基準審議会(IASB)が2024年7月に公表した公開草案「財務諸表における気候関連およびその他の不確実性」(11月28日まで意見募集)。これは、IASBの第3次アジェンダ協議に対して、財務諸表における気候関連リスクの影響に関する情報が「不十分」あるいは「企業が財務諸表の外で提供している情報、特に他の一般目的財務報告書で報告される情報と不整合に見える」といった懸念が寄せられたことを受けたものだ。公開草案では8つの設例を提案し、企業が財務諸表において気候関連およびその他の不確実性の影響を報告するために、IFRS会計基準の要求事項をどのように適用するのかを例示している。

本誌では、公認会計士の中田清穂氏を聞き手に、IASB理事の鈴木理加氏へのインタビューを実施。公開草案の意図や設例の読み解き方、背景にある考え方などを聞いた。

なお、公開草案の原文は IASBのWebサイト で閲覧可能なので、併せて参照されたい。

1.公開草案の位置付けについて

中田  今回の公開草案は、既に公表されている個々のIFRS会計基準の規定に設例を追加するだけで、新たな基準を開発したり、既存の基準を改訂したりするものではないという理解でよろしいでしょうか。言い換えれば、従来から基準で規定されていることを設例によって明確にするものだということでしょうか。

鈴木  はい。設例案は、気候関連およびその他の不確実性による影響に関して、既存のIFRS会計基準をどのように適用するかを説明するもので、既存の基準の要求事項を追加・変更するものではありません。これまでの調査の結果、既存のIFRS会計基準の要求事項は一般的には十分だと認識していますが、気候関連などの新たな課題に対してどのように基準を適用すべきかの支援は必要と考え、公開草案で設例を示している次第です。

中田  具体的には、これらの設例はどのような場面で役に立つのでしょうか。

鈴木 公開草案の結論の根拠(BC)47項にも記載がありますが、企業が重要性を判断し、どのような情報を開示すべきかを検討する場面で役立つと考えています。また、IFRS会計基準の開示要求を適用するにあたってどのようなことを考えたらよいのかについて、追加的な洞察を提供することも目的です。今回の公開草案が最終化されることで、企業が設例を基に改めて開示を検討し、今後の開示が改善されていくことを期待していま...