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[全文公開] 年頭所感 コロナ禍による社会情勢の変革を踏まえた施策を講じ全力で課題に取り組んでいきたい

日本税理士会連合会 会長 神津 信一

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新年あけましておめでとうございます。令和3年の年頭に当たり,皆様に謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

昨年は,世界中で新型コロナウイルス感染症拡大への対応策に翻弄された1年でありました。我が国においても,あらゆる分野に多大な悪影響を及ぼし,経済面でもリーマンショックを上回る景気減退など,かつてない苦境に立たされております。

こうした事態に対処するため,政府は三次にわたる補正予算に基づく緊急経済対策により,納税の猶予の特例や持続化給付金などの各種救済政策を講じたものの,中小企業の多くは事業の継続すら危ぶまれる状況が継続しております。

これらの状況に加え,テレワークの普及による働き方の多様化,そして,行政手続きのオンライン化,ワンストップ化による次世代型行政サービスの推進などにより,税理士を取り巻く環境は大きく変化しております。新たに設置が予定されているデジタル庁や規制改革・行政改革についても,税理士業務に与える影響等を注視しなければなりません。

このような社会経済情勢の変革を踏まえ,日本税理士会連合会では,より一層国民・納税者の信頼に応え得る税理士制度を確立するために諸施策を講じていくこととしております。年頭に当たって,その一端を申し述べたいと存じます。

新型コロナウイルス感染症への対応

新型コロナウイルス感染症の収束が見通せないなか,中小・小規模事業者がより厳しい生活・事業状況を強いられ,苦境に陥っています。そこで,本会は昨年に引き続き中小企業の事業継続と発展を支えるための施策を挙会一致で進めていくこととします。

また,新型コロナウイルス感染症拡大は,我が国のデジタル化・オンライン化の遅れという問題点を浮き彫りにし,本会会務運営のあり方を含め,大きな変革を迫ることとなりました。ウェブ会議の活用やICT化に対応した諸規則の改正など,持続可能な会務運営を図るための基盤整備を速やかに進めるとともに,マルチメディア研修の充実,税務支援のあり方の見直しなどの検討を進めてまいります。

次期税理士法改正に向けて

経済・社会の更なるICT化が進展する中,ウィズコロナ・アフターコロナの社会・経済状況を見据え,ICTを前提とした税理士制度の変革が求められています。これら税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応すべく,多様な人材の確保や税理士の資質の一層の向上など国民・納税者の信頼と納税者利便の向上を図る観点から,昨年末の税制改正大綱に記載された道標に沿って,税理士法改正の実現に向け関係各所とも連携を密にし,より具体的な検討を進めてまいりたいと考えております。

税制改正への対応

本会では,税理士法に規定された建議権に基づき,毎年,権限ある官公署に対して税制改正に対する建議を行っております。

急速に悪化する財政状況は,今後の税制を考える上で避けて通ることのできない大きな課題です。同時に困窮する企業の事業継続・雇用維持に向けた税制の更なる充実も必要です。税理士会に与えられた建議権の重みとその意義を再認識しつつ,税務の専門家の視点からあるべき税制の建議を目指し,年初から建議書の検討に入ります。

また,令和5年10月に導入が予定されている適格請求書等保存方式の再検討を含め,事業者負担の少ない制度の構築を提言することとしております。

事業承継への対応

平成30年度税制改正で大幅拡充された法人版事業承継税制(特例措置)に加え,令和元年度税制改正では個人版事業承継税制が創設されました。しかしながら,経営者の高齢化に伴い,休廃業・解散件数は依然として増加傾向にあり,70歳以上の経営者の約半数は後継者が決定していないなど事業承継に対する準備が進んでいない状況にあります。そこで,引き続き会員に対する研修の充実,事業者への周知などの施策を積極的に進めてまいります。

中小企業に最も寄り添った存在である税理士が主導的役割を果たしていくことにより,次世代への健全な事業承継が行われ,日本経済の底上げにも寄与するものと確信しております。

次世代税理士の育成に向けて

我が国の税理士制度は,永年にわたる先輩諸氏のたゆまぬ努力と社会的制度としての有用性により,国民のみならず立法府や行政からも信頼される制度へと発展し続けてまいりました。この世界に誇れる税理士制度の更なる発展を願い,多くの優秀な若者が税理士資格の取得を目指せるよう,若者向け対外広報ツールの充実や職業説明会の実施などを通じ,税理士の魅力を伝えてまいります。

今後とも,税理士法第1条に規定する税理士の使命を踏まえ,国民・納税者の信頼に応え得る税理士制度を確立するため,本会,全国15の税理士会及び関連団体が一丸となり,厳しいコロナ禍を乗り切り,全力で諸課題に取り組んでまいる所存でありますので,皆様の更なるご理解とご支援をお願い申し上げ,新年のご挨拶といたします。