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[全文公開] アングル 遺留分について

 税理士 川田 剛

( 45頁)

はじめに

わが国の相続税実務上,「遺留分の減殺請求制度」の存在とその処理は,相続人間でモメたときに最もやっかいな問題とされているもののひとつである。

特に,遺言によって相続財産の配分が決められており,その遺言に従った遺産分割が終了した後に,遺産を取得できなかった者から遺留分があったとして減殺請求の訴えがなされた場合,相続税の申告納付等の手続を改めてし直すという手続きが必要になってくるためである。

しかし,米国や英国などのように,このような制度が存在しない国がある。遺留分について,国によってこのような差異が生じているのは,そもそも前提となる法体系が異なるためである。

ちなみに,遺留分制度が存在しているのは,フランスやドイツなど大陸法系の国である。わが国が参考としたナポレオン法典を源流としているフランスなどでは,配偶者や子供に「遺留分」が認められており,そこでいう子供は,相続人であれば未成年である必要はないとされている。ただし,遺留分の権利者及び割合については,国によって若干異なっている。 (注)

(注)具体的には次のようになっている。

日本

フランス

遺留分権利者

配偶者

子(代襲相続人を含む)

直系尊属(子がいない場合のみ)

同左

同左

なし(2006年に廃止)

遺留分の割合

法定相続分の1/2相当額

同左

なお,韓国や台湾などでも,法定相続分について差はあるものの,日本と同じく遺留分制度が採用されている。

(注)ちなみに,韓国の法定相続分は,直系卑属の5割加算(1.5:1)とされており,残りを直系卑属で等分することとされている(韓国民法100条)。また,台湾では,均分相続となっていた。しかし,1976年の改正法案のなかで,日本と同じく直系卑属がある場合,2分の1を法定割合にすべしとの意見が出されたが成立までは至っていない。

遺留分制度が存在していない国 ~英米法系~

英国や米国 (注) などにおいては,「遺留分」という制度自体が存在していない。そのため,被相続人の遺言があれば,一人の者が被相続人の全ての財産を相続することも可能である (注)

(注)ただし,米国においても,ルイジアナ州などナポレオン法典に準じている州においては,遺留分制度が存在している。

しかし,そのような州においても,実際に遺言書を作っているのはそれほど多くないようである。 (注)

(注)例えば,米国では成人の4割以上が遺言書を作成していないとのことである。また,遺言書は作成されていても無効のものがかなりあるとのことである(法務省「各国の相続法制に関する調査報告書(平成26年)」44頁など)。

なお,遺言がない場合,一般的には裁判所(Probation Court)によって指名された遺産管理人が,それらの遺産に係る遺産税納付後の遺産について,裁判所とも相談のうえ,配偶者や未成年の子供等の学業その他生活上の必要性等を考慮した所要の金額を(Probate homestead)を留保し(カリフォルニア州の場合),そこから生活費等の形で毎年所要の金額を支給するという形で救済がなされている。