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[全文公開] アングル ウーバー配達員はウーバーの従業員とみるべきか

 税理士 川田 剛

( 114頁)

はじめに

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,ウーバーを利用した飲食店による宅配が急増している。このような動きは,わが国だけでなく,米国や英国,フランス等でも共通してみられるようである。

ところで,この種の業務に従事する配達員のなかには,交通事故等により,やむを得ず仕事を中断せざるを得ないケースも生じている。

しかし,現在の契約形態の下では,それらの者は,ウーバー社とは独立した「個人事業者」とされているため,失業保険等の対象にはならないし,年次休暇等の取得も認められていない。

そのため,米国や英国,オーストラリア,フランス等では,これらの仕事に従事する者が,ウーバー社に対し,「自分たちを同社の従業員として認めるべき。」とする訴訟が提起されている。

このような状況の下において,2021年2月19日,これらの者に関する注目すべき判決が英国最高裁から出された。そこで,今回は,同判決の概要及び同判決が及ぼす税務へのインパクトについて紹介する。

英国最高裁の判断

この訴訟は,ウーバー社から配達事業を請け負っている個人のグループによって,2016年に提起されたものである。具体的には,ウーバー社に対し,自分達を「独立自営業者(self-employed)」としてではなく,ウーバー社の「従業員(employed-worker)」として扱えという内容の訴訟である。

ちなみに,英国の雇用法では,雇用形態を次の3つに区分している。

  • ① フルタイムの従業員(full time employed)
  • ② 自営業者(self-employed)
  • ③ ①と②の中間形態
  • 今回,英国最高裁で示された判断は,請求人らは,①②の中間形態になる③に区分される(Worker Status lies between those are sully independent and employee)というものであった。そのうえで同裁判所は,ウーバー社に対し,彼らに超過勤務手当と病気休暇等の追加的権利を与えるべき(additional rights such as over time pay and sick leave)と命じている。

    今回の判決は,英国内のみにとどまらず,EU諸国や英国と同じ法体系によっているオーストラリア (注) にも大きな影響を及ぼすことになるとみられている。

  • (注)ちなみに,オーストラリアでは,下級審の段階ではあるが,多くの事案で英国とは反対に会社側勝訴となっていた。
  • 税務上の扱い

    この判決結果を踏まえ,英国で現在,最も注目されているのが,税務上の扱いがどうなるかという点である。

    それは,税務上,労働法のような3区分方式が存在していないことから,これらの者を税務上被用者(employed)または自営業者(self-employed)のいずれかに区分しなければならないためである。

    マスコミ等によれば,この点について,英国税務当局(HMRC)のスポークスマンは,「個別案件について基本的にはコメントできない(Unable to comment on an identifiable business)」としながらも,「内容を詳細に分析したうえ(carefully scrutinize business),法律に従い適切な措置を取る。相手が大企業であるからという理由で,他の納税者と別異の扱いをすることはない。」としている。

    この点について,オックスフォード大学のフリードマン教授(Freedman)は,問題となっている者の税務上の扱いについて,Daily Tax Report紙の取材に応え,次のように述べたとされている。

    「本件における業種区分を英国所得税法上そのまま利用することはない(We do not use this category in U.K. income tax law)。」

    「VATについては,ウーバー社が原則的な納税者になるのか否かにもよるが,直ちに同社がVATの納税義務を負うということにはならない(The question is around Principals and agents so the decision has no immediate beaning on tax.)」。

    なお,別の報道によればウーバー社側では,VATの要納付金額について税務当局(HMRC)側と水面下で話し合いを開始したとの話もあり,今後何らかの形で税務にも波及するとの観測もなされている。