親子間契約書は必要か有用か〈1〉
外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上 康一
本稿では,本号から3回にわたり,主として日本の移転価格税制の観点から,親子間契約書の必要性と有用性について検討します。本稿の構成と掲載の予定は,以下のとおりです。
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Ⅰ はじめに
第三者との重要な取引に関しては,後日の紛争を避けるために,当事者の権利義務を明確にした契約書を交わすのが通常である。これに対し,例えば,親会社とその完全子会社である外国法人との間の取引では,利害の対立が顕在化しない。このため,親子会社間の取引については,契約書を作成する必要性が乏しいと思われるかもしれない。実際,日系の多国籍企業グループの場合,法定の義務である移転価格文書化には対応していても,国外関連取引に係る契約書の整備は不十分な場合が多いようにうかがえる 1 。
しかし,はたしてそれで良いのかというのが本稿の問題提起であり,重要な国外関連取引については契約書を整備すべきであるというのが本稿の結論である。かかる契約書の整備は,移転価格税制上重要な意味を持つのみならず,税務リスクマネジメントの向上や外国子会社に対するコントロールの強化という数々のメリットをもたらすからである。このことを明らかにするために,本稿は,以下の(1)から(7)までの論点を取り上げる。
なお,本稿では,内国法人を親会社とする多国籍企業グループを前提とし,しかも親会社とその完全子会社である外国法人(以下,単に「外国子会社」という。)との間の国外関連取引を念頭に置いて説明する。このため,両者間の取引に係る契約書を,便宜上,親子間契約書と呼ぶことにする。また,本稿では,日本の移転価格税制上の問題点を中心に検討するが,必要に応じて寄附金課税 2 及び外国子会社所在地国の税制に関連する問題にも言及する。
(1)親子間契約書の国内法...