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10月に合意された「OECDデジタル課税・世界最低税率制度」の概要と企業への影響

長島・大野・常松法律事務所 パートナー・弁護士 南 繁樹

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1 デジタル課税の幕開けと,「底辺への競争」の終焉¹

2021年10月8日,OECDは超巨大企業(世界全体で約100社)の利益の一部を物理的拠点を有しない市場国に配分する旨の第1の柱(Pillar 1)と,一定規模を有する企業の収益に対して世界共通の最低税率15%を適用する旨の第2の柱(Pillar 2)に136国・地域が合意したことを公表した 。第1の柱は物理的拠点を有しない国において課税を受けるという点において1920年代からの国際課税のルールを変更するものであり,第2の柱は課税権は主権国家が自由に行使するとの概念に変容を迫るものであり,その2点において根本的改革("a ground-breaking tax deal")であるといえる。この合意は,10月13日のG20財務大臣会合の支持を受けた後,10月末のG20首脳会議(ローマ)において「より安定的で公正な国際課税制度を確立する歴史的な成果である」と位置付けられた

第1の柱の対象となる企業は,規模が大きく(売上高200億ユーロ),収益性が高い(利益率10%)という観点から特定されるから,もはや「デジタル課税」ではないとの見方も成り立つ。しかし,企業と課税権を有する「市場国」との間において,オンライン販売や動画ストリーミングのように「インターネット上のつながり」しか存在しない場合や,モノの売買でも「第三者販売会社を通じたつながり」しか有しない場合にも課税権を認めている点はこれまでにないコンセプトである。これは,いわゆるデジタル企業のみならず,企業一般が物理的な媒介ではなくデジタルによって伝達されるブランドや無形資産に化体さ...