※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

[全文公開] アングル IRSアマゾン等を利用した不正取引につき脱税罪で告発

 税理士 川田 剛

( 37頁)

はじめに

日本の場合と異なり,IRS査察官の仕事は,脱税のみでなく,その外延部にも及んでいる。

今回の事案も,もともとは,IRSの査察官が,司法省等による一般的な不正(general fraud)摘発の一環として,ある者を詐偽罪の疑いで捜査していたところ,その波及効果として脱税罪も立件できたという事案である。

  • (注)なお,本件は,2020年3月31日にIRSから公表された資料に基づくものである。
  • 事案の概要(脱税以外の罪)

    テキサス州に住む,V. Simonらは,シスコ・システムやアマゾン社など(通信販売業者)を相手に,巧妙な手口で,それらの会社が有する顧客番号(serial number)を取得し,ドメイン・ネームを登録していた。ただし,そこに出ているeメール・アドレスは,実際には存在していないものであった。同人らは,そのメールアドレスを通じて品物を注文したが,代金は未払いの状況にあった。その状態で,同人らは,品質保証書を会社あてに送付し,送られた品物に欠陥があるとして会社あてにクレームを行った。

    このような事態に対応すべく,アマゾン社等では,eメールで表示されていた彼らの住所あてに代わりの品物を送付した。しかし,彼らはそこには住んでおらず,品物のみを受領し,それを横流しして,代金を着服していた。しかも,代替品が送付された時点で,契約自体はキャンセルされていた。

    これらの手法により,彼らは,販売仲介業者であるアマゾン等を通じ,製造者から500万ドル(約5.5億円)の商品をだまし取っていた。また,シスコ・システム社を始めとするネット会社からも,300万ドル(約330億円)を超える金品をだまし取っていた。

    (脱税罪)

    これらの詐偽行為に加え,Simonらは,2014年に9.5万ドルと,2016年に21.2万ドルの所得税負担を免れ,2015年には多額の所得があったのに無申告だった。そこで,IRSから脱税罪でも告発された。

    査察官の調査結果によれば,彼らは,そのようにして得た資金を,偽名の銀行口座及びPaypal口座に秘匿するとともに,一部を現金とし,そこから個人的経費を支出していたとのことである。

    今回の捜査の特色

    IRSの発表資料によれば,今回の捜査は,IRSの査察官,FBI及び司法省(検察官)の三者協力の下で行われたとのことである。その結果,被告には,最大で821年の投獄(incarceration)と5年の監視付保釈(supervised release)に加え,825万ドル(約9億円)の罰金刑が科される可能性があるとのことである。

    あとがき

    これに類似する事象は日本でも生じる可能性大である。省庁間をまたがった今回のこの事例で若干でも参考になれば幸いである。