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移転価格税制についての素朴な疑問② 連載の開始にあたり(下)

外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上 康一

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Ⅱ  素朴な疑問がなぜ生まれるか(承前)

4 原則論と実務の乖離

(1)問題の所在

日本の移転価格税制は,法人の企業グループ内で行われる国際取引(国外関連取引)において,実際の取引価格を独立企業間価格に引き直して,当該法人の日本における課税所得を再計算する制度である。そして,独立企業間価格とは,実際の取引と同様の状況の下で,独立した非関連者間において通常成立するであろう価格を意味し,法定の算定方法の中から最適方法を選定し計算することとされている。

この定義に従えば,独立企業間価格は,個々の国外関連取引ごとにピンポイントで決まるのが原則である。

例えば,今治造船事件24では,内国法人がパナマ子会社との間で行った船舶の建造請負契約に係る価格が独立企業間価格に満たないかどうかが問題となった。この事案は,当該内国法人がパナマ又はリベリアに所在する非関連者との間でも同様の船舶建造請負契約を締結しており,内部比較対象取引の存在するケースであった。裁判所は,比較対象取引の候補となり得る取引が複数存在しても,その比較可能性に明らかな差があり,容易に比較対象取引を一つに絞り込むことが可能である場合には,最も比較可能...