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移転価格税制についての素朴な疑問⑤ 国税庁は移転価格課税と寄附金課税をどのように区別しているか(3)

外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上 康一

( 41頁)

Ⅰ はじめに( 1月号

Ⅱ 関連規定の精査

1 はじめに

2 移転価格税制の関連規定

3 寄附金課税の関連規定

4 立法担当者の解説

5 移転価格課税と寄附金課税の共通点と相違点

6 まとめ

Ⅲ 国税庁の見解の整理( 2月号

1 問題の所在

2 国税庁の見解

3 まとめ

Ⅳ 寄附金課税の適用要件に関する裁判例・裁決例の考え方

1 はじめに

2 裁判例・裁決例の検討

3 まとめ

Ⅴ 寄附金課税の適用要件の立証責任

1 問題の所在

2 課税要件事実についての立証責任の原則

3 事実上の推定

4 本件の検討

Ⅵ まとめ

1 検討結果のまとめ

2 国税庁の見解の整理

3 国税庁の見解と二段階説の対比

Ⅶ おわりに--納税者は何に留意すべきか

1 問題の所在

2 納税者としての留意点

3 発想の転換の重要性

Ⅴ 寄附金課税の適用要件の立証責任

1 問題の所在

国税庁の見解が以上のように整理できることを前提とすると,法人と国外関連者間の全ての取引について,理論的には,常に寄附金課税の適用があるかどうかを先行して検討しなければならない。そして,その適用の有無は,上記Ⅳ,3(1)(a)で掲げた二要件,すなわち①資産又は経済的利益の無対価の移転及び②通常の経済取引として是認できる合理的理由の不存在を裏付ける事実が認められるかどうかにかかっている。

この二要件が認められるかどうかは,最終的には,その立証責任63の問題を踏まえて考える必要がある。そこで,以下では,その点を簡単に説明するとともに,「事実上の推定」の問題にも言及する。これらの問題の検討は,裁判における寄附金課税の適用要件の立証の問題を理解する上で,重要であることはいうまでもないが,その効用は裁判の場面に限定されるわけではない。これらの問題は,税務調査における寄附金課税の適用を巡る攻防,ひいては寄附金課税のリスクを軽減するための証拠の整備を検討する上でも有用と考えられるため,あえて本稿で取り上げるも...