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[全文公開] 新任社員のための国際税務の仕組みとポイント 第24回 税務調査

 公認会計士・税理士 佐和 周

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今回は,これまでに解説してきた日本の税制などについて,税務調査で問題になることが多い点を確認し,併せて,海外における税務調査で問題になりやすい点にも少しだけ触れたいと思います。なお,いずれも法人税(または法人所得税)の分野に限定して書いていきます。

1.日本における税務調査

(1)通常の法人税調査

最近はコロナ禍で状況が異なりますが,日本企業は通常,2~3年ごとなどの一定の周期で税務調査(実地調査)を受けることが多いと思われます。ただし,国税庁では近年,実地調査以外の多様な手法を用いて,納税者の自発的な適正申告を推進する取組みを行っており,その関係で,税務に関するコーポレートガバナンスの状況が良好な大企業については,税務調査の間隔が相対的に長くなる可能性があります。

なお,法人税の税務調査についていえば,国税局が大規模法人(資本金1億円以上の法人など)を所管し,税務署がそれ以外の法人を所管するという分担になっています。

(2)移転価格調査

移転価格調査は法人税調査の一部として整理されており,同一事業年度に対する移転価格調査と通常の法人税調査は同時に実施されます。つまり,ある年度を対象とする法人税調査が終われば,原則として,再度同じ年度の移転価格調査を受けることはなくなります。しかしながら,事前に納税者からの同意があれば,移転価格調査を通常の法人税の調査と区分して実施できます。

移転価格税制に関しては,通常の法人税の調査以上に高い専門性が要求されるため,従来は専門部署が主に調査を担当してきました。東京国税局についていうと,国際情報(第一)課と呼ばれる部署がこれに該当しますが,2020年7月に国際課税専門部署の組織改編が行われ,改編後の国際課税に係る調査は,(新)国際調査課という部署において,総合的に行うこととされました。これにより,移転価格調査についても,タックス・ヘイブン対策税制に係る調査などと併せて,(新)国際調査課が行う調査の中で実施されることになります。

2.税務調査になったら,どのくらい税金を取られるか

国税庁が公表している「令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると,令和2事務年度(2020年7月から2021年6月まで)における法人税の実地調査の状況は下表のとおりです。

法人税の税務調査の実績(令和2事務年度)

令和2事務年度は,コロナ禍で実地調査件数が少ないため,傾向が読み取りづらい面はありますが,調査課所管法人(税務署ではなく国税局が所管する法人)についていうと,実地調査があればかなりの確率で所得の申告漏れが指摘され,1件あたりの申告漏れ金額も所得ベースで平均約267百万円に及ぶことが読み取れます(上表②列)。また,上表の基礎となった国税庁の資料では,移転価格税制とタックス・ヘイブン対策税制に係る情報は別記されており(上表④・⑤列),税務当局の側でもこれらの税制が重視されていることが窺えます。

なお,税務調査の傾向については,毎年公表される国税庁の税務調査実績のほか,月刊『国際税務』に毎年掲載される『国際課税の動向と執行の現状』などを基礎として,当局のスタンスを確認することが重要と考えられます。

3.日本親会社に対する日本の税務調査

これを前提に,日本側の税務調査について考えると,やはり二重課税を発生させる税制への対応が重要といえます。すなわち,上記2.で挙げた移転価格税制とタックス・ヘイブン対策税制は,いずれも二重課税を発生させる税制です。また,移転価格税制とは少し異なりますが,通常の法人税調査では,国外関連者に対する寄附金も重要な論点になります。

なお,日本親会社が日本の税務当局の税務調査を受ける場合,海外子会社はこれに直接は関係しません。しかし,移転価格税制(国外関連者に対する寄附金の問題を含む)やタックス・ヘイブン対策税制など,グループ内で二重課税を引き起こす税制については,日本親会社だけでは税務調査における指摘事項に対応できず,海外子会社の協力が必要になるものがあります。

以下では,(1)移転価格税制→(2)国外関連者に対する寄附金→(3)タックス・ヘイブン対策税制の順で,見ていきたいと思います。

(1)移転価格税制の論点

移転価格税制については,連載 第8回第12回 で様々な論点を見てきましたが,これには大きく2つの議論があります。すなわち,海外子会社の(営業)利益率に関する全体的な議論と,特定の取引(役務提供取引など)に係る対価の水準に関する個別の議論です。このうち後者については,日本では寄附金の問題として議論されることが多いので,後述の(2)で確認します。

海外子会社の営業利益率に関する全体的な議論

海外子会社の利益率に関する全体的な議論として,海外子会社(国外関連者)の営業利益率が高い場合,海外子会社への所得移転が疑われ,日本親会社の移転価格調査で指摘されるリスクが高くなります。

具体的には,図1のような基準で,移転価格調査におけるリスクを判断することが考えられます。

図1 移転価格リスクの判定ポイント

シンプルにいうと,海外子会社の利益率について質問を受けた際には,その水準を正当化できるかがポイントになります。つまり,「海外子会社には...という機能があり,...というリスクも負っているから,利益率は高くてしかるべきだ」という主張ができるかが重要だということです。その意味で,同業他社との比較等も含めて,事前に説明を準備しておくべきといえます。

無形資産の使用許諾取引

上記の移転価格リスクの問題は,もちろん特定の種類の国外関連取引だけに限定されるものではないですが,税務調査という意味で重要性が高いものとして,連載 第9回 で確認した無形資産の使用許諾取引があります。

端的には,日本親会社が海外子会社から無形資産の使用料(ロイヤルティ)を回収している(回収すべき)状況ですが,このロイヤルティに係る独立企業間価格(料率)の算定方法については,①ロイヤルティの水準を直接見る方法と②ロイヤルティ控除後の海外子会社の営業利益を見る方法の2つが中心になります。

このうち,上記の移転価格リスクの考え方と対応するのが,②の方法であり,具体的には取引単位営業利益法(TNMM)を使って海外子会社の営業利益水準の裏付けとする方法が多く用いられています(図2参照)。

図2 ロイヤルティ控除後の営業利益を見る--TNMMの適用

TNMMの基本的な考え方は,連載 第8回 で確認しましたが,シンプルにいうと「海外子会社の営業利益率がちょうどよくなるような取引価格を算定する方法」です。

すなわち,図2では,海外子会社が自らは重要な無形資産を有しておらず,単純な製造機能のみであることが前提になっています。その状況では,海外子会社のロイヤルティ控除後の営業利益が,同様の状況にある他の現地製造会社と同レベルになるように,(ある意味,逆算で)ロイヤルティの水準が設定されるべきという考え方ですね。

逆に,このTNMMの考え方に基づくと,海外子会社の営業利益率が妙に高い状況だと,税務調査で「ロイヤルティの回収が不足しているのでは?」という疑念を抱かれてしまうということです。したがって,TNMMの考え方(または上記①のロイヤルティの水準を直接見る方法)などに基づいて,ロイヤルティ料率の算定根拠を明確にしておくことが重要になります。

なお,そもそも無形資産の使用許諾の実態があるのに,親子会社間の契約が存在せず,ロイヤルティも回収していないケースや,契約は存在するものの,それとは異なる水準でロイヤルティを回収しているケースなどは,寄附金の議論になることも多いものと考えられます(以下の(2)参照)。

(2)国外関連者に対する寄附金の論点

上記(1)のとおり,海外子会社の営業利益率が高い場合,まずは移転価格税制の視点で議論が行われることが多いと考えられます。一方で,海外子会社の営業利益率が高い場合はもちろん,低い場合でも,国外関連者に対する寄附金という視点で,特定の取引に係る対価の水準に関する個別の議論は行われます。

国外関連者に対する寄附金については,連載 第13回 で各種論点を確認しました。寄附金が認定されるのは,多くの場合,海外子会社からの対価の回収が不十分なケースですが,海外子会社への対価の支払いが過大であるケースも含まれるため,以下では,税務調査で指摘されるリスクが高い5つのパターン(以下)を整理したいと思います。

① 海外子会社からの役務提供対価の回収が不足している

② 海外子会社からのその他の取引の対価の回収が不足している

③ 海外子会社への役務提供対価の支払いが過大である

④ 海外子会社に対する貸付金に係る金利の回収が不足している

⑤ 海外子会社への出向者に係る給与較差補填が過大である

①海外子会社からの役務提供対価の回収が不足している

税務調査における寄附金認定リスクの観点で,最もリスクが高いと思われる取引が,日本親会社から海外子会社への役務提供であり,かつ日本親会社の従業員が出張して現地で役務提供を行っているパターンです。

このパターンで全く対価を回収していなかったり,交通費や宿泊費だけを回収して,日割り人件費その他の費用を回収していなかったり,という場合には,回収不足部分が寄附金として認定される可能性は高いと考えられます。これは,出張の事実が税務調査でも把握しやすいためです。「日本親会社の技術者が海外子会社に出張して,無償で何をしていたのか?」と聞かれると,合理的な回答はなかなか難しいのではないでしょうか。

②海外子会社からのその他の取引の対価の回収が不足している

上記の役務提供取引以外でも,税務調査においては,海外子会社からの対価の回収が不足しているパターンについて,寄附金が認定されることがよくあります。

例えば,上記(1)で触れたように,海外子会社からそもそもロイヤルティを回収していないケースや,ロイヤルティの回収水準が契約よりも低いケースが典型です。また,海外子会社から(海外子会社も使用している)システムの使用料を回収していないケースなども,よく寄附金認定されているようです。

③海外子会社への役務提供対価の支払いが過大である

上記①②とは逆に,海外子会社から日本親会社への役務提供について,対価の支払いが過大であるとして,寄附金が認定されるケースもあります。

具体的には,海外子会社に業務委託料などを支払っているものの,業務実態が伴っておらず,それが過大になっているようなケースが典型です。利益(所得)の付替えという意図が見えやすいからですね。

④海外子会社に対する貸付金に係る金利の回収が不足している

税務調査において,役務提供取引と並んで,寄附金認定されるリスクが高いのが親子ローン取引です。

日本親会社から海外子会社(国外関連者)に貸付け(親子ローン)を行い,利息を回収するという取引については,連載 第20回 において,日本の移転価格税制上の取扱いを確認しました(図3参照)。

図3 親子ローン金利の決め方--移転価格税制の視点

端的には,まずは比較対象取引を探し,それがなければ,借手である海外子会社の銀行等からの調達レート,次いで貸手である日本親会社の銀行等からの調達レートを参照して,親子ローンの金利水準を決定することになります。日本親会社が回収している金利が不足していれば,基本的には移転価格税制の問題となりますが,実務では,無利息貸付や金利の減免に代表されるように,金利の回収不足が寄附金の議論になるケースも多いといえます。

⑤海外子会社への出向者に係る給与較差補填が過大である

税務調査においては,海外子会社への出向者に係る給与較差補填についても,寄附金として指摘されることが多いと考えられます。

連載 第19回 の内容を再確認すると,基本的な考え方として,出向元法人(日本親会社)が出向先法人(海外子会社)との給与条件の較差を補填するために出向者に支給した給与は,出向元法人(日本親会社)において損金算入が可能という取扱いになっています(図4参照)。

図4 海外子会社への出向者に係る給与較差補填の取扱い

逆に言うと,海外子会社(国外関連者)への出向者の給与に関して,日本親会社が給与較差部分を超えて負担している場合には,寄附金認定され,過剰な較差補填部分が損金不算入となってしまう可能性があります。特に現地の給与水準が年々上昇しているような場合には,過去に設定した較差補填が現在は過大な負担となっている可能性もあるため,注意が必要です。

(3)タックス・ヘイブン対策税制の論点

移転価格税制と並んで重要な税制がタックス・ヘイブン対策税制です。

タックス・ヘイブン対策税制については,連載 第1415 回で各種論点を見てきました(全体像について,図5参照)。

図5 タックス・ヘイブン対策税制の全体像(判定手順)

この税制に関しては,税務調査対応という意味で特に重要なポイントとして,以下の5つを挙げることができます。

① そもそも外国関係会社の範囲が正しく把握されているか

② 外国関係会社の租税負担割合は正しく計算されているか

③ 外国関係会社が経済活動基準を充足していることが根拠資料等で明確に説明できるか

④ 経済活動基準を充足する外国関係会社について,受動的所得の発生状況は把握されているか

⑤ 合算課税が発生する場合,合算所得は正しく計算されているか

詳細は連載 第1415 回を見返して頂くとして,ここでは簡単に各項目に触れたいと思います。

まず,①については,海外の出資先に変更が無ければ見落としは起きづらいと思われますが,買収などで外国関係会社(特に間接保有のもの)が増えた場合には,注意が必要です。

②の租税負担割合については,その国の法定税率とは異なるもので,日本側で算定する必要がある一方,非課税所得の発生等により影響されるので,正しく算定するのは容易ではありません。

また,③経済活動基準については,特に事業基準(外国関係会社の主たる事業が株式等・債券の保有や工業所有権等・著作権の提供等の一定の事業に該当しないことを確認するもの)や管理支配基準(外国関係会社がその本店または主たる事務所の所在する国または地域において,その事業の管理,支配及び運営を自ら行っていることを確認するもの)に照らして問題になりそうな状況は,可能な限り事前に把握しておくべきといえます。

さらに,④の受動的所得についても,従来よりも範囲が拡大されているので,改めてチェックが必要です。

なお,⑤については,この連載ではカバーできていないですが,合算所得の計算には海外子会社の税務申告に係る情報が必要であり,また調整計算も複雑なので,誤りが発生しやすい分野といえます。

4.日本親会社に対する海外の税務調査

ここまでは,日本企業に対する日本の税務調査の論点ですが,日本企業が海外で税務調査の対象となることもありえます。日本企業の海外支店が税務調査の対象になるケースはわかりやすいですが,海外子会社の税務調査が波及して,日本企業からの出張者が現地でPE(恒久的施設)認定される場合などがこれに該当します(連載 第6回 参照)。この点については,PEリスクの回避はもちろん,いざ追徴税額が発生したときに外国税額控除を適用できるかどうかも含めて,事前に考えておく必要があります(図6参照)。

図6 PE認定のリスクと課税後の対応

5.海外子会社に対する税務調査

(1)税務調査の対象になりやすい状況

次に,海外子会社に対する税務調査についても,少しだけ触れたいと思います。

日本と同様,海外でも一般的に税務調査になりやすい状況があり,まずはその子会社自体の損益状況が重要になります。単純にいうと,海外子会社が安定的に利益を計上し,十分に納税していれば,海外の税務当局には文句は言われません。逆に海外子会社の損益状況が良くないと,税務調査の対象になりやすいと考えられます。

また,海外子会社については,日本親会社(及びグループ会社)との取引規模とその取引に係る損益状況も税務調査リスクを考える上では重要です。シンプルにいうと,上記3.(1)の日本側の移転価格リスクの裏返しですが,海外子会社の側で,日本親会社に所得を付け替えているように見えると,リスクが高いということです(図7参照)。

図7 海外子会社の税務調査リスク

海外子会社の税務リスク(特に移転価格リスク)を示唆する状況

1.海外子会社の損益が継続的に赤字である

2.海外子会社の利益水準が同社が果たす機能や負担するリスクに対応していない

(または現地の比較対象企業より低い)

3.日本親会社などに多額のロイヤルティやマネジメント・フィーを支払っている

例えば,現地側の移転価格調査でも,ローカルファイルでTNMMを用いている海外子会社について,比較対象取引について議論するようなケースはよくあります。しかしながら,特に新興国においては,調査官が移転価格税制自体を十分に理解していないこともあり,必ずしもしっかりとした移転価格税制に関する議論が行われるとは限りません。例えば,海外子会社の事業内容をよく理解しないまま,税務当局側が独自に選定した比較対象企業のデータをもとに,不自然に高い利益率を主張してくることなどがあります。

(2)税務調査で争点になりやすい事項

これも日本側の税務調査の裏返しですが,海外子会社の税務調査(法人所得税の調査)においては,日本親会社への支払いの損金性が問題になることが比較的多いと考えられます。特に,日本親会社に多額のロイヤルティや役務提供対価を支払っている場合には,それが実際に損金算入できるかどうかをよく検討しておく必要があります。

上記3.で見たとおり,日本親会社の税務調査では,それがロイヤルティであっても,役務提供対価であっても,とにかく「海外子会社から対価を回収すべき」という方向での指摘事項が多いと考えられます。一方で,それに従って日本側で回収を進めると,今度は海外子会社の税務調査でその支払いの損金性に疑義が呈される,というのが基本的な構図とえいます(図8参照)。

図8 両国における税務調査の視点

そのため,海外子会社から何らかの対価を回収する場合には,海外子会社における損金性も確認しながら進める必要があります。

ロイヤルティの損金性に疑義が呈される場合を例にとると,海外子会社の税務調査における指摘のロジックとしては,「なぜこんなに料率が高いのか」という非常にシンプルなものから,「なぜこんなに古い契約なのに,まだロイヤルティを払い続けているのか」という若干答えづらいものもあります。また,海外子会社に十分な利益が出ていない場合には,「なぜ利益も出ていないのにロイヤルティを支払う必要があるのか?」という本質的な指摘も想定しておかなければなりません(上記3.(1)の裏返しです)。

なお,海外子会社の税務調査においては,よりシンプルな指摘事項として,損金算入している費用の根拠資料(インボイスなど)に不備を指摘されていることもあります。根拠資料の整備は当然ながら重要なことですが,例えば,「インボイスがない」,「インボイスに不備がある」,「インボイスはあるが,これは会社経費ではない(=私的費用である)」といった指摘事項は,海外子会社における不正の存在を示唆している可能性があり,日本親会社側でも詳細に内容を確認したほうがよいかもしれません。

次回予告

次回は,最終回ということで,国際税務のテーマである「二重課税」という観点から,本連載を振り返りたいと思います。