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[全文公開] アングル IT時代における税務不正

 税理士 川田 剛

( 69頁)

はじめに

税務は時代を写す鏡である。したがって,社会やテクノロジーの発展により時々刻々と変化してきている。

それは,税法の抜け穴等を探して租税回避や脱税を図る手口が時代の先端を行っている場合が多いからである。

そこで,今回は,最近問題となっている税務不正の手口について紹介する。

税務不正12の手口

その1...IRSのIDの窃盗(なりすまし)

IRSの首席監察官(TIGTA)による財務長官への報告でも指摘されていたように,他人のIDを盗み出し,それを悪用する行為は,今日極めて一般化された犯罪行為となっている。その事前防止と悪用防止は,全ての行政機関にとって最重要課題となっている。

なかでも,IRSは,個人の秘密情報の宝庫であるところから,そのターゲットになり易いとされている。

そこで,IRSでは,司法機関との協力によりその摘発に努めるとともに,IRS独自の企画として,盗んだIDを利用した不正還付や納税者の個人情報の流出防止に力を入れている。

この問題への対処は容易ではないが,IRSでは,IDを盗まれた人達の協力等も得て,その防止と早期発見に努めている。

「なりすまし」による不正還付は,同一の納税者名(IDも同じ)により複数の申告書を出すという手口で行われていることがわかってきた。

IRSは,このような不正還付防止プログラムの充実により,2011年には累計で14億ドルの不正還付を未然に防止したとのことである。

また,司法省と協力し,盗用したIDを利用して不正還付を試みた105人を告発した。

そこでIRSでは,「もし,皆さんのなかでIDが盗まれたと気づいたときには,IRSの特別部門(IRS.ID Protection Unit. www. IRS. gov/identitytheft)までご連絡願いたい。」として納税者に協力を呼びかけている。

その2...フィッシング(のぞき見)

フィッシング行為は,多くの場合,eメール又はにせ(fake)のウェブサイトなどを通じて行われる。その結果,本人にとって大事な情報が彼らの手にわたってしまう。

典型的手口は,IRSの名をかたって納税者の情報を入手しようというものである。

このようなことから,IRSでは,「eメールで納税者のプライベートなことに関する情報や財務情報の提供等を求めることはない。もし疑問の点があったり,被害にあわれたときは,Phishing@ins. gov.までご連絡下さい。」として注意をうながしている。

その3...申告書作成代理人による 不正

IRSは,米国では,「納税者の約6割が有料の申告書作成代理人に個人の税務申告書の作成を依頼している。」としている。

そして,「大部分の申告書作成代理人は,クライアントに正しいサービスを提供しているが,なかにはそうでない者もいること。」

「それらの者のなかには,クライアントの還付申告書の作成料を水増してたり,自分に頼めば過大還付ができると宣伝して顧客を勧誘している者もいる。」としている。

そのうえで,「IRSでは,司法省の協力を得てこのような者の摘発に力を入れてきているが,納税者の側でも相応の注意が必要である。」としたうえで,「2012年には全ての申告書作成代理人に対し,申告書作成に際し登録番号(PTIN)の記載が義務付けたこと。」

ちなみに,「次のいずれかに該当する申告書作成代理人は,問題ありの可能性が高いので,そのような者とは契約されないようおすすめする。」としている。

  • 申告書作成代理人の欄にサインをしなかったりIDナンバーを記載しない者
  • 貴方に申告書のコピーを渡さない者
  • 通常の還付金よりも多額の還付金が受け取れると約束する者
  • 還付金額の一定割合をフィーとしてチャージする者
  • 申告書作成手数料について還付金を貴方と山分けしようと持ちかける者
  • 今までに申告したことのないような項目を追加する者
  • 申告書に虚偽の所得,費用,税額控除等の記載を持ちかける者
  • その4...オフショア所得の秘匿 (hiding income offshore)

    この点についてIRSでは,

    ①「過去数年間にわたり,多数の納税者がオフショアにある銀行やブローカー,名目だけの事業体等,デービット・カード,クレジット・カード等を利用して米国の租税を脱税していたという事実が明らかになった。」

    ②「なかには,外国の信託やリース取引,私的年金等を利用して同様のことをしていた者もいた。」としたうえで,

    「オフショアの銀行等から入手した資料情報をもとに,司法省の協力も得てその摘発に努めてきた。」としている。

    さらに,「外国に預金口座等を保有すること自体は,合法ではあるが,それに伴う報告義務等については適正に履行する義務がある。」こと,「この種の義務を履行していないことは違法であり,多額のペナルティ賦課の対象となるだけでなく刑事告発の対象にもなる。」という点を強調している。また,

    ①「2009年以来,約3万人が期間限定の海外税金等に関する自発的開示特別プログラムに従って開示を行ってきた。」

    ②「これから数年間にわたり新しい海外口座報告制度が徐々に導入されていくこととなっていることから,オフショアを利用した所得隠しはより困難になってくる。」

    ③「2012年初頭,IRSはオフショア口座自発的開示プログラム(OVDP)及び2011年の開示プログラム(OVDI)に続くプログラムを再スタートさせ,納税者及び税務専門家から高い関心を集めている。」としたうえで,

    ④「この分野においても,IRSはITを活用しその解明に努めるとともに,司法省と密接な協力の下,広範なプログラムを展開していること。」

    ⑤「これらのプログラムは,別段のアナウンスがあるまで無期限で継続されること。」

    ⑥「2009年の自発的開示プログラムでは,当初見込んでいた人の約25%から開示があり,34億ドルの税収増となった。

    また,データが判明している2011年だけでも前納金として10億ドルの納付があった。」としている。

    その5...低所得者対策(IRSからの税金及び社会保険料等の詐取)

    IRSでは,「低所得者層をターゲットとして,証ひょう類のない還付申告書を提出し,不正還付を受けるケースが散見される。この種の行為は無から有を生じることからFree money from IRSと称されている。同様のことは社会保険料の分野でも行われている。」として次のような注意を呼びかけている。

    「IRSでは,隠れたプロモーターが存在しているとにらんでいる。この種の意図的な行為に対しては5000ドルのペナルティが課されるので注意していただきたい。」

    その6...仮空の源泉徴収票を使った不正還付及び費用の過大計上による不正還付

    「所得がないにも拘らず,給与の支払いを受け源泉徴収があったかのようにして還付申告書を提出する行為及び費用を水増しする形で不正還付を行うケースも多数みられている。」としたうえで,

    「この種の行為も,みつかれば1件当たり5000ドルのペナルティの対象となる。」と注意を呼びかけている。

    その7...仮空の情報申告書(1099)を利用した不正還付

    省略

    その8...仮空の不服申立て(税の納付を免れるため,ありもしない不服申立てや訴訟をデッチあげる行為)

    この種の行為について,IRSでは,「すでに気がついており,典型的パターンをIRSのホームページ上で公表しているので念のため。」として,改めて注意喚起をしている。

    その9...給与所得なし(様式4852)との不正クレーム

    これについても,5000ドルのペナルティ賦課の対象になるとして注意喚起している。

    その10...慈善団体の濫用

    この点について,IRSでは,「特にオフショアに所在すると称する仮空の慈善団体を利用して所得控除や資産隠しが横行している。」としたうえで,たとえ,それらの団体が実在する場合であっても,

    ①「実際には寄附者がそれらを支配している例が多いこと。」

    ②「しかも,寄附金(特に現物による寄附)には,その価額を大幅に水増ししているものが少なくないこと。」

    ③「2006年の年金保護法でこの種の行為に対するペナルティが大幅に引き上げられたこと。」

    などをあげてこの問題に積極的に取り組んでいくとしている。

    その11...法人のオーナーシップの偽装

    この点について,IRSでは,「法人の真のオーナーをわかりにくくするため,無関係の第三者(特にオフショア居住者)を名義上のオーナーにする事例がみられる。しかもそれらの法人の大部分が所得の過少申告や仮空経費の計上等に利用されている。」としている。

    そのうえで,「IRSでは,州当局とも協力し,この種の法人の真のオーナー解明に努力している。」としている。

    その12...トラストの不適正利用

    これについて,IRSでは,「過去数年間にわたり,不誠実なプロモーター等がトラストを利用した資産移転を行ってきた。」としたうえで,「トラスト自体の利用は違法ではないが,なかにはトラストの利用により納税者本人の所得金額が大幅に低下したり,資産額が大幅に減少したりしている例もみられる。IRSでは,これらは租税回避行為にあたる可能性が高いとみている。」としている。

    また,「これから,トラストの利用を考えておられる皆さんは私どものこのような見方を十分ふまえたうえで行動されるようにしていただきたい。」として注意を呼びかけている。