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[全文公開] アングル 小規模法人

 税理士 川田 剛

( 90頁)

はじめに

周知のように、わが国では、大法人か否かの区分基準を資本金においている。それによれば、わが国の法人の約9割は、資本金1億円以下のいわゆる中小法人に区分されるとのことである(国税庁発表)。

それに対し、米国では、資本金による区分は用いられていない。しかし、全法人の6割強は日本の中小企業に相当すると思われる小規模法人、いわゆるS法人である。

そこで、今回は、S法人に関する話をLLCと関係付ける形でしてみたい。

米国の法人制度

米国では、刑法だけでなく、民法や会社法といった民事法も、基本的に州政府の所管となっている。

そして、各州におけるそのような差異をできるだけ縮小すべく、連邦レベルでは連邦モデル法を策定し、各州に対し、できるだけこれに沿った形で法律を作って欲しいとしている。

しかし、各州は、それを参考にすることはあっても、それに従うことは州の自主権の侵害であるとして独自性を打ち出そうとしている。

その典型例が、リミテッド・パートナー・シップ(LPS)に対する扱いである。

周知のように、LPSは、州によって法人格が与えられたり、そうでなかったりしている。同様のことは、法人自体に対する法制度についてもみられる。

その典型例が、1977年にワイオミング州でスタートした有限責任会社(Limited Liabilty Company:略称L.L.C.)である。

この制度が創設されたのは、法人格を有しつつ、連邦法である税法上のメリット(パス・スルー課税)を享受するためであったといわれている。

このような州法上の組織体を、連邦法である租税法(内国歳入法)上どのように扱うかは、当初定められていなかった。

そして、それはパートナー・シップについても同様であった。

州法に基づく法人の連邦税法上の取扱い(LLCの場合)

そこで、これらの組織体の取扱いを連邦税法上明らかにするため、1997年に、納税者に課税方法を選択させる「チェック・ザ・ボックス・ルール(Check the box rule)」が導入された(財務省規則1.301.7701-3(a))。この規則が制定されたことにより、

① 連邦税法に基づき設立された組織体については、連邦税法上も法人として扱われること、

② 2人以上の構成員を有する組織体(eligible entity)については、

ⅰ.出資者なる構成員とは別の人格(Association)として法人課税を受ける方法か、

ⅱ.構成員自体で課税を受ける方法、

のいずれかを選択することができることとなった。

(注)ちなみに、連邦統一LLC法モデルによれば、原始定款(articles of organization又はcertificate of formation)に異なる定めを置かない限り、LLCは、その事業又は事務を遂行するために必要な能力を、個人と同様に有することとされている。また、意思決定は、全員賛成を原則としている。

連邦法に基づく法人の税法上の扱い (S法人の場合)

LLCが州法上の概念であるのに対し、S法人は、連邦税法で規定されている法人である(IRC第1361条、1362条)。そのため、ある法人がS法人に該当するか否かは、税務上極めて重要になってくる。

(S法人の要件)

内国歳入法上S法人として認められるためには、その法人は、次の要件を充足していなければならない(IRSホームページより)。

① 米国の内国法人であること

② 株主は、米国の居住者である個人、遺産財団などのいわゆる「適格者(Qualified Person)」であり、かつ「全体で100人以下」であること

③ 発行株式は、普通株(単一種)のみであること

④ それらの法人は、いずれかの州法に基づいて設立された銀行業、証券業などでないこと

⑤ 様式(Form)2553を所定の期限までにIRSに提出していること

なお、株主数の計算に当たっては、配偶者(Spouse)は、本人と同一とみなして扱われている(IRC第1361(C)(1))。

また、たとえS法人に該当していたとしても、IRSへの所定の届出(様式2553による届出)がなければ、S法人としての特典である「pass-through課税」は受けられない。

さらに、S法人に該当し、その届出をしていた場合においても、そのS法人の所得について、前年度にC法人課税を受けていた場合や総収入中に占めるロイヤリティ、地代、家賃、配当、利子、年金(annuities)、株式売却益等といったいわゆる「受動的所得(passive income)」が総所得の25%超の場合には、パス・スルー課税は受けられず、超過部分に対し、通常の法人(C法人)として法人税が課税され(IRC第1362条(d)(3))、その状態が3年間続いた時にはC法人扱いとなる。

(LLCとの関係)

前述したように、LLCは、州法に基づく法人ではあるが、州法によって設立されたLLCであっても、上記の要件を充足し、かつ、IRSに様式2553の届出をすることにより、税務上S法人としての扱いを受けることができることとされている。

※ちなみに、様式(Form)2553で規定されている要届出事項には次のような内容のものがある。

ⅰ.法人名及びその所在地(EIナンバー付き)

パス・スルー課税に同意している株主数と株主名(パス・スルー課税を受ける者)

※パス・スルー課税を受けるためには全株主の同意が必要とされている(IRC第1362条(a)(2)、(b)(2))

オフィサー名

ⅱ.パス・スルー課税の選択をする課税年度(希望年の3月15日までに要提出)

―暦年

―会計年度等

ⅲ.株主のなかに適格遺産財団(QSST)があるときはそれらに関する情報(IRC第1361条(d)(2))

ⅳ.届出期限

パス・スルー課税の停止、取止め

パス・スルー課税は次のいずれかの事象が生じたときに停止又は取止めとなる。

① 任意の取止め(IRC第1362条(d)(1))法人によるパス・スルー課税の取止めは、全株主の過半数の同意が必要

当該申告が3月15日後になされたときは翌年分から有効

② 強制停止(ineligibility)(IRC第1362条(d)(2)(e))

法人がパス・スルー課税を受けられるS法人としての資格を失ったとき は年分を2つに分け、有効分についてはS法人課税、その後の年分についてはC法人課税となる。

※株主が100人を超えたときなどがそれに該当する。