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[全文公開] 年頭所感 『納税者の信頼に応え得る税理士制度の確立へ』

日本税理士会連合会 会長 神津 信一

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あけましておめでとうございます。令和5年の年頭に当たり、皆様に謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

コロナ禍によりデジタル化が一気に加速し、行政事務の効率化のみならず、電子帳簿保存法の施行などにより企業のデジタル化が進み、税理士を取り巻く環境も大きな変革の時期を迎えております。

このような状況下において、昨年3月には第6次となる税理士法改正が実現しました。日税連においては、時代の急速な進展に対応すべく改正税理士法の適正な運用に資する会則・規則等の整備を進めているところです。

税理士が時代の要請に的確に応え、より一層国民・納税者の信頼に応え得る税理士制度を確立するため、本会は諸施策を講じていくこととしております。年頭に当たり、その一端を申し述べたいと存じます。

デジタル社会への対応

税理士法改正により、デジタル技術を活用した業務が税理士の業務に含まれることが明示されました。特に改正電子帳簿保存法への対応は、中小企業の成長戦略と税理士制度発展に大きな影響を与えるものです。税理士が電子帳簿保存制度を熟知し、納税者にその利活用について助言していくことが重要となってまいります。

電子帳簿保存制度のみならず、これまで税理士が推進・発展させてきた電子申告をはじめとするデジタルを活用した制度をより良いものにし、税理士のデジタル技術の活用に向けた支援施策を検討し実施することで、多くの納税者にとって利便性の高まる税理士制度になるよう進めてまいります。

将来を担う税理士の輩出

税理士試験への早期の取り組みを可能とすべく、税理士法改正により今年の税理士試験から受験資格が緩和されます。すでに、税理士受験予備校では、税理士試験コースの受講者数が増加していると仄聞しており、早くも税理士法改正の効果が出てきていると実感しているところです。一方で、5科目合格までの期間が長期化傾向にある税理士試験のあり方を見直すべく、試験制度に関する検討を進めるとともに、税理士の魅力を継続的に発信していくことで、税理士を目指す若者を掘り起こしてまいります。

税制改正への対応

本会では、税理士法に規定された建議権に基づき、毎年、権限ある官公署に対して税制改正に対する建議を行っております。令和5年度税制改正においても、財務省主税局、国税庁、総務省自治税務局、中小企業庁等に建議書を提出し、積極的に意見を述べてまいりました。

急速に悪化する財政状況は、今後の税制を考える上で避けて通ることのできない大きな課題です。同時に困窮する企業の事業継続・雇用維持に向けた税制の更なる充実も必要です。税理士会に与えられた建議権の重みとその意義を再認識しつつ、税務の専門家の視点からあるべき税制の建議を目指し、年初から建議書の検討に入ります。

本年10月に導入が予定されている適格請求書等保存方式については、適格請求書発行事業者の登録申請を進めるとともに、制度導入にあたって、中小企業の事務負担の軽減に留意し、さらに、免税事業者の取引排除につながることのないよう、関係各所に対し、積極的に働きかけた結果、一定の成果も出てまいりました。

引き続き税務の専門家として、法令に規定された納税義務の適正な実現が図られるよう対応してまいります。

中小企業支援

中小企業は、地域社会を支える重要な経済基盤でありますが、コロナ禍や世界規模の資源高騰などにより、事業の継続が危ぶまれる中小企業が多く存在しています。そこで、本会の事業承継サイト「担い手探しナビ」の利用促進を図るべく、外部機関との連携等も行うほか、本会ホームページ内に事業承継に係るポータルサイトも設置しました。中小企業の事業の回復・継続・発展を図るとともに、創業と事業承継を推進するための施策を講じてまいります。

また、中小企業にとってもデジタル化は喫緊の課題となっております。企業の財務情報等を熟知した顧問税理士が、その企業にとって適切なデジタル化の支援を行えるよう、研修等を実施するとともに、中小企業に過度な事務負担がかからぬよう、簡易で安価なデジタルインボイス制度の構築に向けた取り組みについて協力してまいります。

昨年7月28日に開催した税理士制度80周年・第6次税理士法改正記念式典において、中里実東京大学名誉教授・政府税制調査会会長による記念講演「税理士制度と財政制度--専門的職業人としての税理士の地位」を行い、税理士制度の将来への展望を講演いただきました。

今後とも、税理士法第1条に規定する税理士の使命を踏まえ、国民・納税者の信頼に応え得る税理士制度を確立するため、本会、全国15の税理士会及び関連団体が一丸となり、全力で諸課題に取り組んでまいる所存でありますので、皆様の更なるご理解とご支援をお願い申し上げ、新年のご挨拶といたします。