※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

[全文公開] 年頭所感 『持続可能社会への公認会計士の貢献』

日本公認会計士協会 会長 茂木 哲也

( 14頁)

謹んで新年のお慶びを申し上げます。

平素より当協会の活動にご理解ご支援を賜り、心から御礼申し上げます。

2022年は、公認会計士業界において大きな転換点となる1年となりました。15年ぶりに公認会計士法が改正され、上場会社監査事務所登録制度を中心に制度整備がなされました。加えて、当協会ではブランディング施策を取りまとめ、タグラインや協会ロゴの見直しを行いました。

当協会では、新タグライン「信頼の力を未来へ」の下、公認会計士が国民経済の健全な発展に寄与し、安心で活力に満ちた豊かな未来の創造に貢献するべく、持続可能な社会の実現に向けた様々な施策に取り組んでいます。年頭に当たり、今後の展望と当協会の取組を述べさせていただきます。

1.サステナビリティに関する取組

SDGsに対する世界的な支持の広がりやESG投資の急速な普及により、サステナビリティ情報の開示・保証のニーズが高まっています。現在、国内外においてサステナビリティ情報の開示に関する基準策定に向けた検討が進んでおり、2022年には国際的なサステナビリティ保証基準の開発も着手されています。公認会計士は、社会からの期待に応えるため、財務諸表監査とともにサステナビリティ保証の領域においても重要な役割を担うべく取り組んでまいる所存です。

また、企業におけるサステナビリティ経営の推進は、サプライチェーン全体での取組として進められています。公認会計士には、大企業だけではなく地域経済を支える中小企業に対してもサステナビリティ経営を啓発することで、地域社会の持続的成長に貢献してまいります。そして、私たち自身もサプライチェーンの一員として自らの業務においてサステナビリティを推進してまいります。

当協会は、国内外の関係者と共に、サステナビリティに関する取組を推進し、持続可能な社会の実現に貢献します。

2.デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じたイノベーションの推進

近年、コロナ禍の影響もあり、経済・社会のデジタル化が急速に進展していることなどを背景に、我々を取り巻く環境は大きく変化してきています。このような変化に公認会計士は自らが順応するとともに、変化に対応しようとする企業・組織等を支援し、また社会のイノベーション推進に参画していく必要があります。

例えば、デジタルインボイスの活用については、2023年10月のインボイス制度導入を見据えた対応に留まらず、業務改革や持続的な成長の実現に向けた取組として期待されています。公認会計士は、会計・監査の専門的知見に加えDXの観点も踏まえて企業・組織等を幅広く支援し、デジタル化という社会課題の解決に貢献します。

また、監査業務においてもデジタル技術の活用が進んでおり、より深度ある監査により、情報の信頼性確保に貢献することが期待されています。当協会はITを活用した最新技術の研究など、未来に向けた取組を進めていきます。

3.税制の在り方に関する意見発信

当協会では、毎年、税制改正意見書を公表しています。一例として、国際租税の分野においては、デジタル経済への課税について、日本におけるインバウンド所得に対する課税が適切に行われるとともに日本企業の国際的な事業活動を阻害しないよう、なるべく簡素で実効性のある税制が設計され、持続可能性が高い経済社会が構築されることを望む旨の意見を発信しています。

引き続き、社会・経済の変化と諸外国の動向を注視し、税制の在るべき姿について客観的な視点から検討を重ね、積極的に意見発信をしてまいります。

4.社会の変化を踏まえた開示制度の一層の充実に向けた取組

昨年は、資本市場を取り巻く制度の在り方に関する検討が活発に行われました。

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいては、中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けた検討が進められました。具体的には、サステナビリティ、気候変動対応、人的資本・多様性、コーポレートガバナンスに関する開示や四半期開示制度の見直しといった論点について議論されています。

そのほかにも、2008年に導入された「内部統制報告制度」の見直しに向けた議論などが金融庁において進められました。

資本市場を取り巻く制度の議論に当たり、当協会は今後も、開示制度の一層の充実に向けて、多くのステークホルダーと積極的に対話を実施するとともに、公共の利益に貢献する立場から、我が国の経済社会の発展と企業の国際競争力の強化に寄与するべく、積極的に意見の発信を行ってまいります。

5.おわりに

公認会計士制度は今年、制定75周年を迎えます。

当協会は、公認会計士がこれからも社会に信頼を創り、持続可能な社会の実現に貢献していけるよう、制度創設100周年に向けて長期的な視点を持って諸施策に取り組んでまいります。経済界、学界等の関係各所には、引き続き、温かいご支援とご指導をいただければ幸いです。

末筆ながら、皆様の益々のご健勝とご活躍、そして、2023年が素晴らしい1年となることを祈念して、年頭の挨拶とさせていただきます。