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[全文公開] アングル 米国のCFC税制調査

 税理士 川田 剛

( 93頁)

▶はじめに

外国子会社合算税制(いわゆるタックス・ヘイブン対策税制)は、CFC税制とも称されている。

(注)ちなみに、CFCとは、Controlled Foreign Corporationのことで、わが国では「被支配外国会社」という訳名で知られている。そして、その調査は最も難度が高いといわれている。

そこで、今回は、米国の外国子会社合算税制(サブパートFで規定)の概要及びその調査方法等について、IRSの研修資料をベースにみていくこととする。

▶IRSの研修資料の概要

IRSでは、わが国の調査部に相当する「大規模法人及び国際部(LB&I International)」の職員向けに、サブパートFに関し大略次のような内容の研修資料を配付している。

サブパートFの概要

外国で事業活動を行う事業体のなかには、支店としてではなく、外国で法人を設立するというやり方で行っているところがある。このような外国法人を利用する大きなメリットは、そこに利益を留保させることにより、本来であれば米国株主留保となる米国での課税を先送りできるという点である。

本税制(サブパートF税制)ができるまでは、無税又は低税率の国に法人を設立し、それらの外国法人を通じて配当、利子、地代、個人所得などの所得(いわゆる汚れた所得:tainted income)を得させることにより、米国株主の負担を大幅に軽減したり先送りしたりすることが可能だった。

そこで、1962年の税制改正で、このような行為を規制する税制(サブパートF税制)を導入した。

この税制によれば、米国居住者(個人、法人等を含む。)によって議決権の一定割合(50%超)を保有されている外国法人(いわゆるCFC)の得る利子、配当、個人所得といったいわゆる汚れた所得(tainted income)のうち、米国居住者の持株割合に対応した分を米国居住者の所得として発生後に課税するというやり方が可能となる(IRC第951条(a))。すなわち、この税制は、外国法人の得た所得に対して直接課税するものではなく、当該外国法人の株式等を保有している米国居住者に申告納税を求めるという制度である。そして、株式の一定割合(10%)以上を有するCFCが得た所得のうち米国居住者が有している当該CFCの株式等の持分割合に応じた所得を米国居住者の所得とみなして合算課税するという方式が採用されていることから、CFCが納付した外国法人税についても米国居住者の持分割合に応じた外国税額控除が認められている(IRC第960条)。

▶米国居住者の所得に合算されるCFCの所得(IRC第954条ほか)

サブパートFに基づき、米国居住者の所得として合算されるCFCの所得は、CFC所得の全てではなく、IRC第952条及び第954条で規定されている所得に限定されている。ちなみに、IRC第951条(a)では、サブパートFが適用されるCFCの要件として次の3つをあげている。

① 米国居住者は、CFCの株主たる米国居住株主でなければならない。

② 本税制の対象となる外国法人は、米国居住者によって一定割合の株式を保有されている被支配外国法人(CFC)でなければならない。

③ CFCには、サブパートF所得がなければならない。

▶サブパートF所得

米国居住者の所得に合算されるCFCが得ているサブパートF所得とは、次のような所得である。

① 国外基地会社販売所得(Foreign Base Company Sales Income : FBCSI)(IRC第954条(a))

② 国外基地会社サービス所得(FBC Services Income)

③ 国外・個人所有会社所得

④ CFC帰属の保険所得(IRC第952条(a)(1))

⑤ 国外基地会社石油関連所得(IRC第954条(a)(5))

⑥ 国際ボイコット所得(IRC第952条(a)(3))

⑦ 違法な収わい、キックバック等(IRC第952条(a)(4))

⑧ ブラックリスト掲名国から得た所得(IRC第952条(a)(5))

⑨ CFCを通じた米国資産への投資から生じた所得(IRC第951条(a)(1)(b)及び第956条)

適用除外

① 米国で合算済みとなっている所得からの配当(IRC第952条(c)(1)(A))

② デミニマス・ルール(CFCの総所得の5%又は100万ドルのいずれか少ない方の金額(IRC第954条(b)(3)(A))

③ CFCの法人税率のうち、米国最高法人税率の90%超の部分(IRC第954条(d)(1)(A))

④ 外国基地会社の製造用設備等から生じる所得(IRC第954条(d)(1)(B))

⑤ CFCに該当する国外居住個人所有法人所得のうち、積極的事業活動により生じる所得(IRC第864条に規定する所得)

⑥ CFCに該当する国外個人所有法人所得のうち、同一国の関連法人から受領した受取配当等で、IRC第954条(c)(3)非該当のもの

主な用語の定義

① CFC

外国法人のうち、米国株主によってその議決権の50%超又は全ての財産処分権の50%超を所有されている外国法人(IRC第957条)

② 所得合算を受ける米国株主

米国居住者で、上記要件に該当する外国法人の議決権等の10%以上を所有している者(IRC第957条(c)及び第7701条((a)(30)、(31))

③ FBCSI国外基地会社販売所得

米国株主によるサブパートFの濫用の一形態は、CFCを利用することで米国内の所得を海外に移し、米国での課税を免れることにある。FBSCIはこの様なサブパートFの濫用を防止するために設けられた制度である(IRC第954条(d))

その結果、米国株主がCFCを通じて得た所得は、サブパートFに含まれ規制の対象となる。

④ FBCサービス所得

FBCサービス所得は、CFCがその設立地以外の国で設立した関連法人を通じて、技術サービス、エンジニアリング、建築、科学、スキル等のサービスを提供することで所得分散を図ることを防止するために、IRC第954条(e)で設けられた措置である。

⑤ FPHCI(国外個人所有会社所得)

これも、サブパートF規定創設に際し、濫用防止の一環として、配当、利子、年金、地代、ロイヤリティ等の所有、譲渡、利用等から生じる所得移転を対象に、IRC第954条(c)で導入された規制措置である。

▶具体例による説明

なお、同マニュアルでは、これまでにみてきた説明をまとめる形で、次のようなイメージ図を用いて説明している。

前提

① 米国法人は米国外にA社~D社の4社を有している。A社は高課税国所在で、持株割合は20%である。他は(B社~D社)軽課税国所在で米国法人の持株割合は100%である。

② A国FC1社は米国法人から仕入れた製品を全世界に販売している。

CFC2社(B国)は外部の第三者から部品を購入し、それらを組み立てたうえで部品として米国法人に提供している。

CFC3社(C国)は米国法人に対しサービス(ただし、部品、製品とは無関係)を提供している。

CFC4社(D国)は外部の銀行に預金し、利子を得ている。

サブパートFとの関係

① 米国法人はA国子会社の株式の10%以上を所有しているので、FC1は、IRC第951条(b)でいう外国関係会社に該当するか?

米国株主全員をあわせても持株割合が50%超にならないので、CFCには該当せず、同社で生じた所得をサブパートF所得として米国法人の所有に合算する必要はない。

② B国~D国所在の子会社は、米国法人によって100%の株式を所有されているので、IRC第957条(a)でいうCFCに該当する。

③ CFC2による米国法人への部品提供は、それらの部品がB国外での関連者によって消費されているときにはFBCSIとしてCFC2の所得に含まれる。

④ CFC3により米国法人に提供されたサービスは、FBCサービス所得として米国法人においてサブパートF所得に含まれることになる。

⑤ CFC4により外部の第三者から得られた所得は、FPHCIとなり、米国法人のサブパートF所得に含まれる。