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[全文公開] アングル 送金規制と移転価格税制との関係

 税理士 川田 剛

( 108頁)

▶はじめに

移転価格税制は、米国など国内取引を対象にしている国があるものの、その多くは国際間取引を対象としたものである。

そのため、国によって税制以外の仕組みが異なっていることも少なくない。

先進国間であればそれらの差異はそれほど多くないものの、途上国においては、先進国の仕組みと異なった制度を有している場合も少なくない。

それらの相違のうち、移転価格税制との関係において最も問題となってくるのが、「送金規制」との関係である。

▶わが国の取扱い

わが国の場合、相手国で送金規制を受けた場合、わが国でそれをどのように扱うべきかについては法令・通達のいずれかにおいても規定されていない。

幸いなことに現在までのところ係争事案は生じていないようであるが、もし生じた場合には問題となってくる可能性がある。

▶米国の場合

早い段階から企業の多国籍化が進展していた米国では、進出先国で送金規制を受けるという事例も多く、なかには訴訟にまで至った事例もある。

P&G事案

その先駆けとなったのが、洗剤メーカーとして知られるProcter & Gamble社の事案である(注)。

(注)Procter & Gamble Co. V. Commissioner 961 F. 2d 1255 6th Cir. 1992.

この事案(P&G事案)では、米国親会社の100%子会社でマーケティングを行うスイス子会社(AG社)の100%子会社(米国親会社からすれば孫会社)であるスペイン法人(E社)が米国親会社に支払うこととなっていたロイヤリティが、当時のスペイン法制で国外送金が認められなかったとして、米国親会社で収益計上していなかった(対象年は1978年~1979年)。それに対し、IRSが、たとえ現地法令で送金が禁じられていたとしても、米国税法(第482条)で所得配分にゆがみが生じていればそれを是正すべしという規定がある以上、適正なロイヤリティ料率相当分を米国親会社の所得に加算すべしとしたことから、その処分の取消しを求めた納税者との間で争いとなった。

この事案において納税者の主張が認められたことから、米国財務省は、移転価格に関する財務省規則(1994年)の中で、それらに関する取扱いについて明記したうえで反論し、その主張が認められている。

3M事案

しかし、その後も争いは消滅していない。

例えば素材メーカーの3Mがブラジル子会社との間で行った取引についてである。

この事例では、化学・電気素材の世界的メーカーである3Mがブラジル子会社から受領すべきロイヤリティについて、現地法令で送金が認められていないため、米国親会社は収益に計上していなかったことから、IRSがそれらを親会社の所得に加算すべしとして争いとなった。

3M側は、それらのロイヤリティを米国親会社の所得に加算していなかった理由として、財務省規則1―(h)(2)(ⅱ)と先行判例(Procter & Gamble Co. V. Commissioner 961. F. 2d. 1255(6th Civ. 1992)及びUS v Home Concrete Supply LLʼe, 132. S. ct. 1836(2012))をあげている。

本件は、現在租税裁判所で係争中であり、裁判所の判断は示されていないが、もしそこでIRSが勝訴することになり、かつ、その判決が確定した場合、実務に大きな影響を与えることになることから、実務界でもその成行きが注目されている。

ちなみに、P&G事案と3M事案を簡略化すれば次のようになっている。

(参考1)P&G事案の概要

(参考2)3M事案の概要

(争点)

米国親会社で計上すべきロイヤリティ(ALP)は契約に基づく税率(4%)かそれとも送金許可された1%部分のみか

(租税裁判所の判断)

納税者敗訴

※なお、この事案は米国との間で租税条約が締結されていないブラジル子会社との間の取引で生じた事案である。そのため、納税者は両国の権限ある当局間での相互協議による救済は受けられない。