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[全文公開] アングル ウクライナ戦争の行方

 税理士 川田 剛

( 116頁)

▶はじめに

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ側の頑強な抵抗にあい、1年以上を経過しても、一向に出口が見えない状態となっている。

このような状況は、かつてわが国の近くで発生した朝鮮戦争(1950年6月25日~1953年7月27日)においても同様だった。

ちなみに、双方の最大の類似点は、状況の推移如何によっては第三次世界大戦を引き起こす可能性がある(あった)という点である。当時と現在では情報の伝わり方等で大きな差があるが、どのような状況になれば停戦に合意できることになるのかという点で、朝鮮戦争は参考になる。

▶朝鮮戦争(朝鮮動乱ともいう)

わが国がまだ連合国軍の占領下にあり主権を回復していなかった昭和25年(1950年)6月25日、北朝鮮軍の境界線突破によりぼっ発した朝鮮戦争は、3週間~3ヶ月以内で終了するとの連合国側(具体的にはマッカーサー司令部)の当初の見込みが大きく外れ、その後3年近くも続くことになった。しかし、この戦争は、双方の思惑から、「戦争」という言葉は使われず、「動乱」とも称されていた。

それは、当時連合国軍の中心となっていた米国に戦闘突入を命じたトルーマン大統領(当時)が、ソ連側との対決色をうすめるためであった。他方、1950年9月ごろから北朝鮮に多数(100万人以上)の派兵をした中国でも、事態をできるだけ小さくみせるため、派兵に当たっては、個々の軍人が自発的に参加するいわゆる「義勇軍」という形が採用されていたためである。

このようなこともあって、この戦争について書いた「ザ・コールデスト・ウインター・朝鮮戦争」の著名な作家D・ハルバースタムは、この戦争を「歴史から忘れられた戦争」と名付けている。

▶朝鮮戦争との類似点

ウクライナ戦争と朝鮮戦争の類似点はいくつかある。

類似点その1

当初の見込みに反し、戦争がドロ沼化し、長期化してしまっていること。

類似点その2

従軍している兵士だけでなく多くの民間人が戦争に巻き込まれ、多数の犠牲者を出していること。 (注)

(注)ただし、朝鮮戦争で犠牲になった民間人は南北双方の住民だったのに対し、ウクライナ戦争では死亡した民間の犠牲者の大部分がウクライナ人であるという点で異なる。

類似点その3

戦闘状況の展開如何によっては第三次世界大戦に発展するというリスクをかかえている(いた)こと。 (注)

(注)双方が望まなくてもそうなる可能性がある。

類似点その4

寒冷地での戦争であること。 (注)

(注)D・ハルバースタムの前掲書「ザ・コールデスト・ウインター」にもあるように、朝鮮戦争の舞台の多くは山岳地帯であり、当初夏服の準備しかなかった連合国軍にとって敵軍以上に恐れられていたともされていたのが厳しい冬の寒さだった。

類似点その5(戦争開始の口実が自国民の保護にあること)

ウクライナ戦争におけるロシア側の侵攻開始の口実は、ウクライナ東部及び南部におけるロシア系住民の保護であった。

朝鮮戦争時においても、南進の口実は朝鮮人民の開放だった。 (注)

(注)同じ口実は、ヒトラーによるチェコ侵攻でも用いられている。

▶朝鮮戦争との相違点

しかし、ウクライナ戦争では、朝鮮戦争と大きく異なる点もいくつかみられる。

相違点その1(侵攻される側の準備や心がまえの差)

例えば、朝鮮戦争では、北朝鮮側による侵攻の情報はあったものの、少なくとも日本にあった連合国軍総司令部においては、それらが全く無視されていたため、準備がほとんどできていなかった。

このような傾向は開戦後になってもしばらく続き、中国軍の介入はないと見込んだり、たとえ介入があったとしてもクリスマスまでには無事に帰還できるという楽観論が支配していた(詳細についてはD・ハルバースタムによる前記書籍を参照)。

それに対し、ウクライナ戦争では、その前にロシア軍によるクリミア侵攻などがあったため、国民の間にも戦争への相応の準備ができていた。

相違点その2(情報戦)

朝鮮戦争が起こったのはテレビもない時代であり、現地の情報が軍本部や本国に届くまでにかなりの時差があった。そのため、現地の状況はほとんど外部に知られていなかった。それに対し、ウクライナ戦争では、現地からの情報がSNS等で直ちに全世界に発信されるようになっている。

そのため、現地の状況が多くの人に知られるようになっている。

相違点その3(使用される兵器の差)

朝鮮戦争当時、空爆等はほとんどなく、かつ、戦車も場所が山岳地帯だったことからそれほど有効な手段として利用されていなかった。

それに対し、ウクライナ戦争では、ドローンやミサイル等が多用され、さらに地形の関係等もあって戦車が戦場において極めて重要な役割を果している。

相違点その4(民間軍事会社(傭兵)参加の有無)

朝鮮戦争で戦ったのは軍人のみである。それに対し、ウクライナ戦争では、軍人だけでなくロシアの民間軍事会社(ワグネル)が戦闘の中核部隊として参加している。

▶戦費調達

戦争を続けるためには多額の資金が必要になる。

それらをまかなうため、かつては相手国から多額の賠償金を取る(日清戦争時や第一次世界大戦後における対ドイツへの多額の賠償請求など)ということも行われてきた。

しかし、ドロ沼化した戦争においては、たとえ停戦になったとしても、戦争遂行に要した費用はどこにも請求できない。そのため、結果的に新たな借金をするか増税によりそのコストをカバーせざるを得ない。

▶あとがき

朝鮮戦争時に戦場とならなかったわが国は「朝鮮特需」でうるおい、それが戦後復興の一因となったといわれている。 (注)

(注)かつてジャパン・アズ・ナンバーワンの時代に米国駐在していた筆者は講演時に日本国民の勤勉さが経済発展の要因だったと話したところ、現地の知識人から朝鮮特需と冷戦時という大事な点が抜けていると指摘されたことがある。

戦争では多大の人命が失われるだけでなく、武器・弾薬調達のため多額の資金が必要となる。その点ではウクライナ戦争も朝鮮戦争も同じである。形式はともあれ、一日も早い停戦を祈りたい。