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規模の利益が独立企業間価格の算定に与える影響について

  勝野 晃

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1.はじめに

移転価格税制は、国内で事業を行う法人と海外に所在するその関連者(国外関連者)との間で行う取引(国外関連取引)について、独立企業間で行われた場合を参照した金額(独立企業間価格)に引き直して各当事者の所得金額を計算し直す制度である。

これまでも移転価格税制に関する課税訴訟では、多くの論点について争われ、それぞれの争点につき様々な角度からの分析が試みられている。これは、独立企業間価格を算定するためのすべてのプロセスが課税要件となり、各要件には法的な評価を成立させるための具体的事実 が必要とされ、その多くは評価的要件を含むものであり、同税制の特殊性が現れたものと考えられる。

本稿で取り上げる判決(東京地方裁判所令和2年11月26日判決及びその控訴審である東京高等裁判所令和4年3月10日判決(確定)、以下「本判決」という。なお、本判決は基本的に原審の判示を引用していることから本稿で本判決を引用する場合において原判決の該当判示部分を摘示する。)は、国外関連取引に対して独立企業間価格の算定手法として残余利益分割法を適用し、国外関連者の営業利益のうち比較対象法人を参照して計算した基本的利益を超...