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[全文公開] 年頭所感『国民・納税者からの更なる信頼と理解を得られる税理士制度の構築を目指して』

日本税理士会連合会 会長 太田 直樹

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新年あけましておめでとうございます。

昨年は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行されたことにより、人の流れが戻りつつあったものの、エネルギー資源の価格高騰等による電力料金の値上げ、円安による物価の高騰など、多くの中小企業・小規模事業者が厳しい経営環境にさらされた1年でした。また、インボイス制度導入後、初めての確定申告期を迎えることや、改正電子帳簿保存法の宥恕期間が昨年末で終了するなど、事業者が対応しなければならない課題も山積しております。

一方で、ChatGPTに代表される生成AIの活用がビジネスや教育の分野で広がり、日本企業においても独自の生成AIの開発を進めるなど、人からロボットへの流れも加速しています。こうした人工知能の発達は、中小企業はもとより、税理士の仕事にも少なからず影響を与えることになります。

税理士が、これら世の中のデジタル化やAI化の流れに対応し、より一層国民・納税者の信頼に応え得る存在であり続けるため、本会は諸施策を講じてまいります。年頭に当たり、その一端を申し述べたいと存じます。

デジタル社会への対応

昨年6月、国税庁より「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション‐税務行政の将来像2023‐」が公表され、「事業者のデジタル化促進」として、税務手続のデジタル化と併せて事業者のビジネスプロセス全体のデジタル化を促すことが記されております。

一方で、中小企業においては、ソフト等の導入コストやITスキルを持った人材不足などの課題を抱えています。また、そもそも昨今の急速なデジタル化の流れについていけない納税者もおります。税理士はデジタル化への対応に躊躇している、もしくは、その方法がわからない納税者に対し、適切な助言をしていくことで、納税環境整備の一翼を担っていかなければなりません。

そのため、税理士会会員向けのデジタル相談室を一般社団法人日税連税法データベース及び各税理士会と連携して適切に運営していくほか、デジタル化をテーマにした様々な研修を企画・実施していくなど、税理士のデジタル技術の活用に向けた支援施策を進めてまいります。

多様性への対応

現在は、多様性(ダイバーシティ)の時代と言われております。性別や年齢、学歴、価値観などの違いを超えて、様々な年代や経験を持つ税理士が幅広く活躍できるよう積極的に対応していく必要があります。

税理士法改正により昨年の税理士試験から受験資格要件が緩和され、令和5年度税理士試験の会計学科目の受験者数が20%強増加しました。若者をはじめ多様な人材が税理士を目指してもらえるように、税理士の魅力を継続的に発信してまいります。

また、女性が活躍できる場の選択肢を広げ、女性の能力を十分に発揮できる会務運営の実現を目指していきます。クオータ制で選任された女性理事が、その能力を最大限発揮できるような環境整備を進めるなど、税理士業界における男女共同参画の推進に向けた施策を検討してまいります。

その他、都市部と地方の税理士会における考え方や価値観、直面する課題の違いなども十分考慮した会務運営を行ってまいります。

税制改正への対応

国及び地方の長期債務残高は増加し続け、少子高齢化も相まって日本の財政状況は厳しい状況が続いており、このことは今後の税制を考える上で避けて通ることのできない大きな課題です。同時に、なかなか進まない中小企業の事業承継・雇用維持に向けた税制の更なる充実も必要です。税理士会に与えられた建議権の重みとその意義を再認識しつつ、税務の専門家としての視点から将来あるべき税制を建議してまいります。

昨年スタートしたインボイス制度については、導入後の事業者の事務負担や対応状況、また、市場取引に与える影響などを調査研究し、中小事業者の実務の状況を踏まえた柔軟な運用を求めてまいります。

税理士の資質向上に向けて

税理士は、税務の専門家として、会計・税務を取り巻く環境の変化に適切に対応し、自らの職責を果たすために、常に資質の維持向上を図らなければなりません。研修受講義務の達成率100%を目指し、Web研修の更なる充実をはじめ、これまで以上に受講率向上施策を積極的に進めてまいる所存です。また、業務に直結する制度改正等の速やかな周知、各種ツールの作成・提供なども実施し、税理士が専門家として絶えず資質の向上に努めることができる環境整備を進め、更なる国民の信頼と理解を得られる税理士制度としてまいります。

今後とも、税理士法第1条に規定する税理士の使命を踏まえ、国民・納税者の信頼に応え得る税理士制度を確立するため、本会、全国15の税理士会及び関連団体が一丸となり、全力で諸課題に取り組んでまいる所存でありますので、皆様の更なるご理解とご支援をお願い申し上げ、新年のご挨拶といたします。