※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

[全文公開] 年頭所感『社会の期待に応え、信頼溢れる未来へ』

日本公認会計士協会 会長 茂木 哲也

( 16頁)

謹んで新年のお慶びを申し上げます。

平素より当協会の活動にご理解ご支援を賜り、心から御礼申し上げます。

2023年7月に、公認会計士制度は制定75周年を迎えました。企業活動のグローバル化や技術革新、サステナビリティの重要性の高まりなど、社会・経済の環境は大きく変化し、それに伴い公認会計士に求められる役割や業務も変わってきています。公認会計士がこれからも社会の変化に積極的に対応し、「信頼を創る」という価値を実現していけるよう、当協会では様々な施策に取り組んでいます。年頭に当たり、これらの変化に適応していくための施策について述べさせていただきます。

1.会計監査の信頼性確保や公認会計士の能力の一層の発揮・向上に資する公認会計士制度の実現

15年ぶりに改正された公認会計士法が2023年4月から施行されました。法改正はゴールではなくスタートであり、より良き制度運営に向け、以下の取組を一層進めてまいります。

(1)上場会社等監査人登録制度の運用・中小監査事務所に対する支援

上場会社を監査する監査人の規律維持は、自主規制団体である協会の最重要課題の一つです。新制度の運用に当たっては、これまでの自主規制における知見・ノウハウを最大限有効に活用し、厳格な運用を行っています。

また、協会では、上場会社監査の担い手として期待が寄せられている中小監査事務所に対し、資本市場の信頼性の維持・向上を目的として、情報開示の充実を促すとともに、経営基盤強化のための様々な支援策と指導に取り組んでおり、上場会社の監査の担い手全体の監査品質の更なる向上に注力してまいります。

(2)多様な領域で活躍する公認会計士への支援

公認会計士名簿の登録事項に「勤務先」が追加されたことにより、企業等に所属する会員の実態を把握することが可能となりました。監査に限らず、税理士登録を行って税務を担う者や作成者をはじめとする様々な立場で公認会計士が財務報告に関わることは、財務報告のより一層の信頼性確保につながります。協会では、企業等に所属する公認会計士の能力発揮を更に後押しするため、把握したデータに基づき、実践的で有用な支援や指導等を拡充していきます。

(3)会計リテラシーの普及・定着に向けた取組の推進

会計リテラシーは、社会の様々な場面やライフステージで必要・有用となるものです。例えば2024年1月から新しいNISA制度が開始されるなど、ますます投資が私たちの生活に身近なものになっていく中で、こういった制度をはじめとした経済活動を正しく理解するためには、国民一人ひとりが会計リテラシーを高めることが重要です。

当協会では、会計専門家である公認会計士の職業専門家団体として、会計リテラシーの普及・定着に向けて、教育機関等の外部の方々とも広く連携し中心的な役割を果たしていきます。

2.税制や企業情報開示制度の在り方に関する検討

当協会では、昨今の社会情勢を踏まえて今後の税制改正の方向性や在り方について検討を行い、毎年、税制改正意見書を策定しています。一例として、国際課税の観点では、日本企業の健全な海外展開や国際競争力を維持・強化しつつ適切な課税が確保できるよう、デジタル経済に対して実効性に即した税制の構築を提言しています。

また、企業情報開示の分野においては、資本市場において情報開示の領域が拡大する中で、改めて企業情報開示全体を見渡し、その在るべき制度を検討すべき局面にあります。例えば、投資家は株主総会開催前の有価証券報告書提出に関するニーズを持っており、企業と株主との対話促進に資する制度の実現に向けて、これを前向きに検討していく必要があります。

さらに、サステナビリティ情報の開示・保証基準の開発が急速に進められる中、公認会計士は、財務諸表監査とともにサステナビリティ情報の領域においてもその信頼性確保のための重要な役割を担うべく、基準開発及び基準の円滑な導入に向けた支援に取り組んでいます。

一方で、このような新たなニーズに応えていくためには、社会全体での生産性を高められるよう、限りあるリソースをより有効な情報に効果的・効率的に配分していくことが求められます。例えば、企業が公表している統合報告や会社法と金融商品取引法の法定開示書類の一元化を実現することにより、投資家が必要とする情報を効果的・効率的に提供することが可能となり、監査の重複といった課題の解決にもつながります。

引き続き、ステークホルダーと積極的に対話をするとともに、我が国の経済社会の発展に寄与する目的のもとで積極的な対応を図ってまいります。

3.おわりに

公認会計士が社会の期待に応え、安心で活力に満ちた豊かな未来の創造に貢献できるよう、業界全体として取り組んでまいります。関係の皆様方には、引き続き、温かいご支援とご指導をいただければ幸いです。

末筆ながら、皆様の益々のご健勝とご活躍を祈念して、年頭の挨拶とさせていただきます。