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[全文公開] 書評 矢内 一好 著『タックスヘイブン便覧』(2023年12月25日刊行/財経詳報社)

 税理士 下岡 郁

( 111頁)

ついに、100近くのタックスヘイブン国等の情報を我が国のタックスヘイブン対策税制に合わせて記載した待望の書籍が登場した。

現状では、我が国のタックスヘイブン対策税制の適用に関する書物は多いが、タックスヘイブンとなる国や地域の情報は不足している。さらに、グローバル企業の国際税務担当者にとって、最新のタックスヘイブン対策税制に合わせたタックスヘイブン国等の情報を分かりやすくまとめた資料は存在しない。

本書では、タックスヘイブン国等の情報をアジア・大洋州、米州・カリブ海、欧州、印度洋・中東・アフリカという地理的区分に分け、一覧表として整理するだけでなく、我が国の改正されたタックスヘイブン対策税制の規定に基づいて、所得税・法人税がない国や軽課税国、オフショア所得軽課税国、特定事業所得軽課税国といったカテゴリーに合わせて記載している。また、法人税率が15%を超え20%以下の国等や、実務上よく間違えられるタックスヘイブンに該当しない国等の情報も掲載しているため、税理士やグローバル企業の国際税務担当者は、実務作業の混乱を避け、短時間で正確な情報にアクセスすることが可能となる。

さらに、香港やアイルランド、オランダ、スイスなどの日本企業が多く進出する国等の税制概要や税制改正情報、米国のタックスヘイブン乱用防止法案の動向やOECDによるBEPS No.5有害な税協奏とタックスヘイブンの動向、関連年表に関する著者の見解は、国際税務の研究に携わる専門家にとっても必見である。さらに、フランスの海外県の税務、キャプティブ会社とタックスヘイブンに関する分析は、該当企業にとって貴重な情報となるだろう。

人口が千人以下の国を含めた広範囲な調査を行い、一覧表にまとめた本書は他に類を見ない。国際税務の研究と実務に長年携わってきた著者、矢内先生の情報収集力と専門能力の高さが示されている。国名等の索引早見表や資料編を含む目次も、読者にとって思いやりのある編集構成となっている。

最後に、本書は税理士やグローバル企業の国際税務担当者にとって必携のツールであることは間違いなく、著者の深い専門知識と実務経験が生かされたこの書籍は、タックスヘイブンに関連する複雑な問題を解決する上で、貴重なガイダンスとなるであろう。

(税理士 下岡 郁)