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[全文公開] アングル 中国の相続法

 税理士 川田 剛

( 112頁)

▶はじめに

先般、日本に居住している中国人から、「中国に残してきた父親がなくなった。ついては、相続税の相談に乗って欲しい」という依頼を受けた。

周知のように、中国ではわが国のような「相続税」や米国などのような「遺産税」という相続に係る租税は存在していない。

しかし、相続人がわが国の居住者となっていることから、遺産取得課税方式が採用されているわが国の相続税法の下では、日本所在の財産のみならず、中国を含む全世界所在財産についてわが国で相続税の納税義務を負うこととなる( 相法1の3 一)。

しかし、本件では、そもそもその前提となる相続法について問題となった。

そこで、今回は中国における相続法の問題について紹介する。

問題点その1...相続法が適用されるのは中国のそれか日本の相続法か

まず問題となってくるのが、相続法を適用する場合、相続人が居住する日本のそれを適用するのか、それとも被相続人が居住する中国のそれか、という点である。

この点に関し、「法の適用に関する通則法」(平成18年6月21日法第78号)第36条では、「相続は、被相続人の本国法による。」と規定している。その結果、本件においては、原則として中国の相続法が適用になるということになる。

問題点その2...中国の相続法における規定

次に問題となってくるのが、中国の相続法(租税法を含む。)でどのような規定ぶりになっているのかという点である。

ちなみに、わが国の相続法では、「相続人」となり得る者を「血族相続人と配偶者」としている。

そして、「配偶者」については、常に相続人となるものの(民法890条)、血族相続人については、被相続人との関係に応じて次のような順位が定められており、第2順位以下の相続人については、先順位の血族相続人がない場合にのみ相続人となることができると定められている(民法887条~890条)。

第1順位...子及びその代襲者

第2順位...直系尊属

第3順位...兄弟姉妹及びその代襲者

それに対し、中国の相続法においては、相続人には、血族等を対象とした法定相続だけでなく、血族内における相続人を指定する遺言相続(指定相続)という制度も認められている(中国相続法6条)。

ちなみに、法定相続人は「配偶者」 (注) と「一定範囲の血縁者」及び「準血縁者」である。

なお、血縁者及び準血縁者とは、次のような者をいうこととされていた。

(注)なお、ここでいう「配偶者」には、法律による婚姻関係だけでなく、事実婚が認められていた時期における事実婚、さらには、現在の中国建国前の多妻婚制度下における配偶者もこれに含まれる。

1.子供

実子については、嫡出子も非嫡出子も同等の地位にある (注) 。すなわち、扶養関係にあって継親子間にも実親子間と同一の相続権が認められている。

なお、特別養子にも実子と同じ相続権が認められている。

(注)このような特例が認められているのは、長期にわたる国共内戦や一人っ子政策によって家の存続自体が危うくなってしまうような事態への対応だという指摘がある。

ただし、そのためには、特別養子は実の親との関係が消滅していることが要件とされている。

なお、胎児についても、実子と同じく相続が認められている(相続法18条)。

2.孫以下

孫以下の直系卑族には相続権はなく、代襲相続人としてのみ相続権を有することとされている。

この場合、実子のみならず、養子の直系卑族ら、さらには、扶養関係にあった養子、直系卑族にも、代襲相続が認められている(相続法25条、26条)。

3.兄弟姉妹

兄弟姉妹は、全血、半血、を問わず、相続が認められている。

なお、養子にも同様の権利が認められている。

4.父母、祖父母

父母だけでなく祖父母にも相続権が与えられている。

▶相続順位と法定相続分

相続順位は、次のようになっている。

第1順位...配偶者、父母

第2順位...兄弟姉妹、祖父母

(注)第2順位の相続人は、第1順位の相続人が不在の場合にのみ相続できる。

なお、相続権の放棄は代襲原因とはならない。

また、法定相続分は、原則として各相続人均等とされている。ただし、相続人間の協議による合意がなされたときは、当該合意が優先する。

(注)被相続人が生存中に被相続人に対し主要な扶養義務を果たした者には割増しが、他方、扶養義務があるにも拘わらずその義務を果たさなかった者に対しては、相続分を認めないか減額することとされている。

▶遺留分

わが国の場合、一定の相続人について遺留分制度が設けられている(民法1028条以下)。

それに対し、中国の相続法では、裁判等で一部認められることはあっても、法律上の権利としては明記されていない。

▶あとがき

中国の場合、相続税や遺産税というような相続に伴う税がないことなどもあって、現在までのところ、税務上それほど大きな問題は生じていないようである。

しかし、かつてあった多妻制度など紛争のタネになりそうな問題は数多く存在している。

また、貧富の差の拡大や表面化もあり、相続税の導入問題等を含め、今後ともその動向が注目されるところである。