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軽課税所得ルール(UTPR)の仕組みと議論の動向について

長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士 南 繁樹

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第1 軽課税所得ルール(UTPR)の国内法制化の見送り¹

2023(令和5)年12月14日に公表された与党2024(令和6)年度税制改正大綱において、国際課税に関しては、軽課税所得ルール(UTPR: Undertaxed Profits Rule)への言及はなく、適格国内ミニマム課税(QDMTT: Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)について簡潔な記載があるにとどまった。このことは、国際課税に関係する者には意外なこととして受け止められたのではないか。なぜならば、2023(令和5)年度税制改正における所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule)の法制化に引き続いて、本年の2024(令和6)年度税制改正においては軽課税所得ルールの法制化が予想されていたからである。

もっとも、日本に最終親会社が所在する多国籍企業グループにおいては、我が国において実施される所得合算ルールが最終親会社に適用されるため、軽課税所得ルールの適用は限定されるはずである(GloBE規則2.5.2条) 。その意味では、日本企業にとっての軽課税所得ルールの重要性はそれほど大きくはないが、国際的には軽課税所得ルールの適法性について様々な観点から議論が行われている。また、今年度の軽課税所得ルールの法制化が見送られたのは、財務省と内閣法制局との調整がつかなかったためであるとも仄聞するところである。そこで、本稿は、軽課税所得ルール(以下「UTPR」という。)について、UTPRの仕組みを概説した上で(本号)、UTPRに関する国際的な議論の一端を紹介し、その法的検討の枠組みを示すことを目的とする(次号)。但し、本稿は、UTPRに関する評価に関しいくつかの立論の可能性を探索するにとどまり、適法であるか否かなどの立場表明は行わない。

第2 第2の柱の進展状況

国際課税制...