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[全文公開] アングル 第2次大戦直後の外国人等に対する課税

 税理士 川田 剛

( 104頁)

▶はじめに

国内における労働力不足の深刻化に伴い、外国人労働者に対する関心が高まってきている。

その際、問題となってくるのが、外国人に対する課税のあり方である。

若干視点は異なるものの、今から70年ほど前のわが国が占領されていた時代にも同様の問題が生じていた。

そこで、今回は、その当時における外国人課税問題についてふり返ってみることとしたい。

(注)なお、この記事を書くに当たっては井上一郎著「戦後租税行政史考」(霞出版、平成12年4月刊行ISBN4-87602-3、C3033によった)

しかしながら、間接統治を目的としていた占領軍当局にとって、現地の行政秩序を利用して統治を行った方が、占領政策が円滑に進むことは間違いない。

そのため、GHQは、昭和20年(1945年)12月24日付でわが国政府に対し、覚書き(「軍将兵の購入する土産品に対する税金免除に関する覚書」)により占領軍将兵が購入する土産品等については物品税を課さないよう要望した。

いわゆる輸出免税に相当する考え方である。

▶連合国軍人等とわが国の課税法との関係

租税法律主義が当たり前のこととされている最近の若い人達からみると信じられないかも知れないが、ポツダム宣言を受け入れ無条件降伏をしたわが国にとって、占領軍はわが国の統治機能の及ばないところ(いわゆる神の領域)にあった。

そのため、連合国軍人及び軍属は、わが国の主権を超越する連合国軍最高司令部(いわゆるGHQ)の指揮下にあり、被占領国であるわが国の租税法を含む法令の影響は受けないものとされていた。

次に問題になったのは財産税である。周知のように、戦時利得を得ていた者に対し、臨時所得税に加え財産税が課されることとなった。このうち前者については占領軍関係者には無縁の存在であるが、財産税についてはわが国の法令に従えば課税される可能性があった。

そこで、昭和21年(1946年)7月11日で次のような考え方が示された。

「財産税は、連合国人(川田注:軍人のみではない点に要注目)の所有する日本国内外の財産については、日本政府によって課税されるべきではない。」

ただし、財産税についてはその後間もなく廃止されたので、この件はそれ以上問題となることはなかった。

▶在日外国人等に対する課税

占領軍から給与が支給される占領軍の軍人及び軍属に対しわが国の課税権が及ばないのは当然としても、それ以外の人達及び法人等に対する課税の可否は当然問題となってくる。

この点に関し、昭和21年(1946年)6月19日の終戦連絡事務局発のGHQあて文書では、次のような要望がなされている。

「日本政府は(川田注:戦勝国たる)中華民国人のみでなく、すべての在日外国人に対し、その国籍の如何を問わず(但し、進駐軍所属の軍人、軍属を除く)本邦人(日本人)と同様に、現行租税法規を適用して租税を賦課すべきものと考える。」

これに対するGHQ側の回答は次のようなものであった(昭和21年7月2日付SCAPIN-1826-A)、

「①すべての非日本人(non-japanese)に対する地方税及び国税の一般課税の適用については、下記三(川田注:この文でいう②)に特記する場合を除いては、異議はない、但し、右税金は非日本人に対し差別的でないことを条件とする。

②軍人・占領軍所属シヴィリアン及び連合国軍総司令官により外交官としての身分を有するものと認められる職員の受ける給与に対しては、日本政府によりいかなる租税も課せられない。」

これを受けて主税局長から財務局長(当時:現国税局長)あてに日本に在籍する非日本国人の課税に関する租税に通達がなされている(昭和21年8月21日付蔵税1339号)。

▶外国商社に対する課税

当時日本に進出してきていた外国商社のなかには、職員に支払う給与等について源泉徴収をしていないところが殆んどだった。そこで、その課税権を確立すべく、GHQの経済科学局あてに要望をし、それらが認められることとなった(GHQ経済科学局00076号昭和21年9月9日)。

▶あとがき

このように、占領下のわが国の税務当局は一歩づつではあるが、徐々にその課税権を確立していくこととなった。

その後わが国の独立が認められた結果、課税権が完全に回復されることになったという次第である。