※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

[全文公開] 渡邉淑夫先生の訃報に接して

 税理士 川田 剛

( 111頁)

先日、友人から渡邉淑夫先生が逝去されたという連絡をいただいた。

税に若干でもたずさわっておられる方であれば、法人税の大権威である先生の名前を知らない人はいないくらいの有名人であることは周知のとおりである。

先生とは、私が国税庁に入ったころ(1967年・昭和42年)から教えをいただいたばかりでなく、趣味の世界(テニス)でもお教えを受けた仲である。

先生は、国税庁に長い間(特別審理室、審理課、法人税課)勤務され、その間法人税の審理担当官として、現行の法人税基本通達の制定及びその後の改訂に深く関与してこられた。

その成果は、「法人税基本通達逐条解説」(税務研究会出版局)、「要説・法人税法」(税務経理協会)、「法人税法」(中央経済社)、「公益法人課税の理論と実務」(財経詳報社)、「法人税基本通達の疑問点」(ぎょうせい・共著)といった著作物の形で数多くの著書が出版され、多くの読者に親しまれてきた。

また、国際課税の分野において、本誌「国際税務」の創刊時から40年以上にわたって多大の貢献をしてこられた。特に、「コンサルタント国際税務事例」では、実務上生じてくる国際税務に関する種々の質問に対し、歯切れが良く、かつ的確な回答をしてきておられたことは周知のとおりである。

その成果は、これらの質疑応答事例を冊子という形で出版された同名の書籍(税務研究会出版局)の形で結実している。また、それらに加え、出版元は異なるものの、数回にわたって改訂され、国際税務担当者のバイブルともなっている「外国税額控除」(同文館出版)、「国際税務の疑問点」(ぎょうせい・共著)などがある。

さらにこの間、青山学院大学の教授としても教鞭を取られるほか、第43回~第45回の税理士試験委員も務められるなど、後進の育成にも力を注いでこられた。

先生とのご縁はその後も続いていた。例えば、先生が卒業された明治大学商学部及び同大学院で私自身が最初は非常勤講師として、後には大学院の専任教授として、20年近くお世話になった。そして、その際も同僚の教授のなかに、税法で渡邉先生にお世話になったという方が何人かおられたそれらのことがなつかしく思い出される。

このように、税務の分野で長期かつ多岐にわたって、活躍してこられた先生を失うことは、国税庁OBにとってのみならず、税界全体にとっても大きな損失である。しかし、これも天の命ずるところであればやむを得ないであろう。

先生のご遺志に沿うべく最大限の努力をして応えていくことで、先生へのはなむけとし、謹んでご冥福をお祈りしたい。

前明治大学グローバルビジネス研究科教授

川田 剛