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移転価格税制についての素朴な疑問 30 移転価格対応はどのように考えたらよいか(1)

外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上 康一

( 56頁)

Ⅰ はじめに

Ⅱ 本稿の提案

1 提案の概要

2 検討の手順

Ⅲ 移転価格調査の動向とその示唆

1 近時の移転価格調査の動向

2 税務調査の動向からの示唆

3 まとめ

Ⅳ 納税者の移転価格検証の実務

1 最適方法の選択

2 TNMMの実務

Ⅴ 本稿の提案の検討

1 はじめに

2 異常値の特定

3 異常値の要因の検証

4 固めのレンジの設定

5 親子間契約書の整備と取引の実行

6 価格調整条項とその運用

Ⅵ まとめ

Ⅰ はじめに

2021年11月に開始した本連載では、筆者が移転価格税制に関し疑問に思う以下の事項を検討してきた。

(1)国税庁は移転価格課税と寄附金課税をどのように区別しているか( 42巻1号 46頁、 2号 48頁、 3号 41頁)

(2)最適方法はどのように選定されるか( 42巻4号 64頁、 5号 66頁、 6号 60頁)

(3)TNMMはどのように適用されているか( 42巻7号 64頁、 8号 54頁、 9号 58頁)

(4)独立企業間価格はピンポイントかレンジか( 42巻10号 84頁、 11号 46頁、 12号 30頁)

(5)単年度検証か複数年度検証か( 43巻1号 56頁、 2号 77頁)

(6)企業グループ内役務提供の対価はどう決めれば良いか( 43巻3号 56頁、 4号 72頁)

(7)無形資産取引について何に留意すべきか( 43巻5号 57頁、 6号 44頁、 7号 68頁、 8号 60頁、 9号 76頁、 10号 58頁、 11号 82頁)

(8)移転価格文書化制度にはどう対応すべきか( 43巻12号 51頁、 44巻1号 74頁)

(9)移転価格ポリシーはどの程度必要か( 44巻2号 60頁、 3号 60頁)

さらに、本連載に先行する別稿において、親子間契約書の必要性と有用性の問題を取り上げた

本連載では、上記論点につき税務当局がどのように考えているかの解明を中心に据えることを旨としてきたが、実際には随所で自説に言及してきた。そこで、これまで断片的に述べてきた筆者の推奨する移転価格対応策を本連載の締めくくりとしてまとめておく。具体的には、以下の順に説明する。

第一に、Ⅱにおいて、本稿の提案する移転価格対応策を構成する五つのステップを列挙する。

第二に、近時の移転価格税務調査において、調査対象がいかに絞り込まれていくか、その上で実際の課税処分はどのように行われるかをⅢで概観する。そして、かかる概観が本稿の提案の発想の原点と結びつくことを示す。

第三に、Ⅳでは、納税者の移転価格検証の一般的な実務を概説するとともに、当該実務と本稿の提案が乖離していないことを明らかにする。

第四に、Ⅴにおいて、本稿の提案する五つのステップに関する個々の留意点を改めて解説する。

なお、本稿では、説明の便宜上、内国法人(親会社)と外国子会社間の棚卸資産の販売取引を主に念頭に置き、両者間の契約書全般を「親子間契約書」と総称する。また、独立企業間価格の算定方法としては、現在の実務の主流と考えられる手法、すなわち、外国子会社を検...