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軽課税所得ルール(UTPR)の仕組みと議論の動向について

長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士 南 繁樹

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第4 UTPRに関する議論の動向

1 UTPRの特色

UTPR(Undertaxed Profits Rule:軽課税所得ルール)は、原則として損金算入の否定という法形式を取り、損金算入によって生じた所得の限度でかつ現地法人税率で法人税に基づき課税を行う。その額は「追加現金支出税金費用」(an additional cash tax expense)と称されている(GloBE規則2.4.1条) 。このように、UTPRはあくまでも所得課税(法人税)に組み込まれ、それと同一の性格であるという体裁を取っている。しかし、UTPRは以下の点において従来の所得課税の枠を超えている。

ある国における会社から生じる所得と関係なく、他の国の会社の所得に起因して課税が行われる。
CFC税制は子会社の所得に対して親会社に対して課税を行うものであるが、UTPRはこれと異なり、親会社の所得について子会社に課税し、又は兄会社の所得について直接資本関係を有しない弟会社に課税を行う。したがって、自らの支配が及ばない会社(親会社、兄弟会社)の所得について課税を受けることになる。
課税対象の所得が生じるのは(直接又は間接の)子会社ではないから、将来の配当に対する親会社への課税のタイミングを早めただけという見方もできない。

UTPRは、このような斬新な性格を有し、国際法、EU法、各国の憲法、租税条約、投資協定などの既存の法秩序に抵触しているのではないかということが問題となる。そこで、以下において問題となる点を略説する。以下においては、これらの法秩序との関係での抵触の有無を「違法」、「適法」というように表現する。なお、本稿は、UTPRに関する評価に関し、いくつかの立論の可能性を探索するにとどまり、適法であるか否かなどの立場表明は行わない。

2 UTPRを適法とする立論

ランカスター大学のSol Picciotto教授は、UTPR...