※ 記事の内容は発行日時点の情報に基づくものです

[全文公開] アングル 死は存在しない?(相続はどうなる?)

 税理士 川田 剛

( 101頁)

▶はじめに

超高齢化社会を迎え、近年では新生児の倍近い高齢者が毎年亡くなっている。

しかも、数年前に相続税に係る基礎控除の額が大幅に引き下げられたため、相続税の申告件数は大幅に増加してきている (注)

(注)令和5年12月に発表された「相続税の申告事績の概要」によれば、令和4年(2022年)に亡くなった人は対前年比9.0%増の156.9万人、うち相続税の申告件数は被相続人ベースで15万人となり、対前年比で12.4%増となっている。

このような傾向を反映し、ちまたでは、相続対策、なかでも相続税対策と称するセミナー等が活況を呈している。

しかし、もし「死」が存在しないとしたら、「死」を前提とした「相続」やその制度をベースに構成されている「相続税」はどうなるのであろうか。

▶老化と死

どんなに長生きをしている人でも、脳や臓器、さらにはそれらを支えている細胞の老化は防ぐことができないと考えられてきた。そして、その限界は、120歳程度ではないかといわれているとのことである (注)

(注)詳細については月刊文藝春秋のシリーズ「老化は治療できるか」(2023年)を参照されたい。

しかし、たとえそれらの限界が取り払われたとしても、いずれにせよ「死」は訪れる。

それでは、そこでいう「死」とはどのようなものなのであろうか。

▶死は存在するのか?

最近読んだ本(「死は存在しない。」田坂広志著、光文社)によれば、肉体が消えれば意識も消えるので死後の世界はないこととされてきた。しかし、同書によれば、このような考え方によっている限り、「意識」というものの本質を解明できないだけでなく、「予感」や「予知」などといった「意識の不思議な現象」も解明できないとのことである。そして、それを解明できるのは、量子物理学でいう「波動エネルギー」により、全てが記録されているという「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」によって可能なのだというのである。

ちなみに、そこでは、「現実世界での私」と全く同じ「深層世界での私」が存在しているので、たとえ「現実世界の私」が「死」を迎えたとしても、その存在は、「深層世界での私」に移るだけなのだそうである。

▶相続、相続税はどうなる

もしこのような仮説が成り立つとしたら、「現実世界の私」の死を前提として成り立っている「相続」やそれをベースにして構成されている「相続税」の世界はどうなるのであろうか。

「ゼロ・ポイント・フィールド」の仮説はともかく、「現実世界の私」が「深層世界での私」に変化し存在し続けたとしても、相続法制や相続税の世界においては、「現実世界の私」がいなくなったことをもって相続が発生し、それに伴って相続税の納税義務も発生すると考えなければならないとするのは「無知蒙昧の輩」である筆者のたわごとにすぎないのであろうか。

※ただし、今回紹介したのはあくまで学問的な分野に限っての話であり、実務に直ちにインパクトを及ぼすものではないと思われるので念のため。