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[全文公開] チャレンジ!移転価格税制 [第94回] コロナ年度の利益率の考え方

DLA Piper(ディーエルエイ・パイパー東京パートナーシップ外国法共同事業法律事務所) 税理士・国際税務クリニック院長 山田 晴美

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部長: 決算も落ち着いてきたから、そろそろローカルファイルの更新をしないといけないね。

新二: すでに手を付けているのですが、悩んでいることがあるんですよ。

部長: 2023年の業績は例年並みだったし、困るようなことはないんじゃないかな。

新二: 今回は、2021年から2023年分の3年分の利益率について検討しているのですが、いくつかの子会社については、2020年の業績がコロナの影響で例年よりも悪かったことから、3年加重平均した利益率が大幅に低くなってしまうんですよ。

部長: それが何か問題なの?

新二: 比較対象企業の利益率レンジに実績値が入らなくなってしまうので、どうしたものかと思っているんですよ。

部長: それなら、やはり杏さんに相談してみようか。

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杏: パンデミックが起こった2020年の取扱いについてお困りなんですね。

新二: 当社の子会社のうち何社かは、2020年にコロナの影響を受けて、かなり業績が悪化したんですよ。そうなると、例年作成しているローカルファイルのやり方では、実績値が比較対象企業の利益率レンジから外れてしまうので、困っているんです。

杏: そういうことでしたら、具体的な数字で説明した方がいいと思いますので、まずは御社の子会社の実績値を教えていただけますか?

新二: ベトナム子会社の例がこちらになります (図1)

(図1)

杏: 例年は8%~9%程度であるところ、2020年はマイナスに落ち込んでしまっているのですね。

新二: 業種や国によっては、むしろ例年より実績が良くなった子会社もあるのですが、ベトナムに関しては、工場閉鎖の影響と、その後の回復が遅かったことにより、大幅に実績値が落ちてしまいました。

部長: 周辺の同業者も、赤字のところが多いらしいよ。

杏: こうしたケースの場合は、コロナの影響を受けた比較対象企業を選定すれば、御社と同じような利益率になるので、問題は解決すると思いますよ。

新二: ただ、比較対象企業の選定過程で、コロナの影響があるかどうかを判断するのは実際には難しいと思いますが。

部長: そうだよ、そんなに簡単に言わないでよ。

杏: 安心してください。それだけで終わらせるつもりはありませんから。

部長: あー、びっくりした。突き放されたかと思っちゃったよ。じゃあ、もっと別の方法を教えて欲しいな。

杏: では、ベトナム子会社の比較対象となる企業の利益率をまとめてみましたので、こちらをご覧ください (図2)

(図2)

部長: 2020年は微妙な数字だね。コロナの影響があったといえばあったし、無かったと言えば無いようだし...。なかなか説明のつかない利益率だよね。

杏: 御社のローカルファイルでは、3年加重平均を使用して、実績値が比較対象企業のレンジ内かどうかを検討をしているようですので、2022年までと2023年までのそれぞれ3年間の実績値の利益率を比較対象企業の利益率レンジと比較してみましょう (図3)

(図3)

新二: 2022年のローカルファイルで使用する比較対象企業の利益率は、2021年までしかデータが取れないので、2019年~2021年の3年分を使用しているわけですね。

部長: どちらも多少レンジから外れてしまっているけど、まあ、ちょっとだけだし、問題ないかな。

新二: そんなに簡単に言わないでくださいよ。レンジ内に入れようと毎年頑張っているんですから。

杏: ここで考えていただきたいのが、通常の比較対象企業選定のやり方で、コロナの影響があった御社と、影響が判定できない企業の利益率を単純に比較していいのかということです。

新二: でも、比較対象企業の方は、判定が難しいから、こうするしかないですよね。

杏: では、ここでパンデミックの年度に関するひとつのアイディアをご紹介しますね (図4)

(図4)

部長: 比較対象企業の2020年を除外して、2019年、2021年、2022年の3年の加重平均を使っているんだね。

杏: 御社の実績3か年がコロナの影響がない年度ですから比較対象企業の方もコロナの影響があるかもしれない2020年を除外し、2019年を使用することで、パンデミックなど異常事態の影響を除くというアイディアです。

新二: でも、勝手にそんなことをしていいのでしょうか。

杏: このやり方は、リーマンショックの年度について、APAでも採用されていましたし、比較可能性を高めるという意味でも、合理性があると思います。

新二: 確かに、通常年度の実績値の検討を行うために、通常年度の比較対象企業の利益率を使用するというのは、納得できますね。

杏: このやり方で、いろいろ工夫していけば、悩みも少しは解決するのではないでしょうか。

部長: そうだね。一瞬ですっきりしちゃったよ。

杏: 今回は、御社のローカルファイルが3年加重平均を使用しているので、それに基づいてご説明しましたが、調査では年度ごとの検討となるということについても注意しながら、ローカルファイルの更新を行ってくださいね。

部長: 新二君、そういうことだから、よろしく頼むよ。

新二: 解決の兆しが見えてきたので、何だかお腹がすいてきましたね。

杏: 今日はデンマーク産のクリームチーズを使ったスフレチーズケーキを作ってありますので、奈良の和紅茶と一緒にお出ししますね。

部長: 和紅茶というのは、日本の紅茶ということなの?

杏: はい、日本産の茶葉を使った紅茶で、渋みが少ないので、好まれる方も多いですね。

新二: わざわざ奈良まで買いに行かれたのですか?

杏: いいえ、ちょうど唐招提寺で瓊花(ケイカ)というガクアジサイに似た白い花が見頃で、御影堂供華園が特別開園されていたので、それを見に行った際に購入しました。

部長: 確か6月には少しの期間、鑑真和尚神坐像が公開されるんじゃなかったかな。

杏: よくご存知ですね。

部長: かなり前に行っただけだけどね。

新二: それでは部長の昔話をお聞きしながら、休憩しましょうか。

(つづく)

今回は、パンデミックの年度の取扱いについてご質問がありましたので、取り上げさせていただきました。いろいろなケースがあると思いますが、上記のアイディアを参考に、検討してみてください。

DLA Piper(ディーエルエイ・パイパー東京パートナーシップ外国法共同事業法律事務所)

税理士・国際税務クリニック院長 山田晴美

プロフィール:東京国税局において事前確認審査(APA)、TP調査、外国法人調査、金融法人調査、調査部所管一般法人調査、署においては源泉税・消費税・印紙税に特化した調査など調査事務に27年間従事。医薬品・医療機器・金融・損保・建設業を中心とした国際税務調査経験を有する。平成27年1月、国際情報二課国際税務専門官を最後に退官。