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[全文公開] 書評 伏見 俊行 著『ハイドアンドシーク3』(2024年10月18日刊/一般財団法人 大蔵財務協会)

東亜大学 教授・元税務大学校長 藤井 保憲

( 101頁)

本書は、中島みゆきの歌を想起させる。彼女の歌からは、人間性への温かい眼差しと挑戦者への敬意が感じられるが、本書からは、国際的なビジネスの場でいきいきと活躍する人々への暖かい眼差しと共に、税に伴う無用なトラブルに巻き込ませたくないという筆者の強い信念を感じとることができる。

本書の主人公の和田は、国税職員であるが、サンフランシスコ、ジャカルタ、北京に勤務した経験があるとされ、筆者自身がモデルとなっている。各国の制度が異なる中で、企業にとって税引後利益の極大化を図ることは当然の目標であり、それが国際的租税回避として摘発されるかどうかという緊張関係が本書のテーマとなっている。国際ビジネスのひとつの局面を切りとった作品として読み応えがある。それと同時に、国は違っても合理的な課税のために協力し合おうとする各国の税務担当者の姿も著者の経験に裏打ちされたもので興味深い。

国際課税は、国際取引が拡大し、同時に各国が個人や法人の所得への課税を強化するようになった第一次大戦後注目を集めるようになり、概ね100年の歴史を有するが、①国際的二重課税排除のルール作りが行われた第1期、②多国籍企業の行動・タックス・ヘイブンの存在・移転価格税制執行強化などが問題となった第2期、③国際的二重非課税が問題とされるようになった第3期に区分される。

筆者の伏見さんは、その豊富な国際知識・経験を生かして、この第2期から第3期にかけて、わが国だけでなく国際的な税の執行ルール作りで活躍され、現在も学者の立場から、人材の育成、官民の対話等に取り組まれている。

本書は、筆者駐在当時反日感情が高まっていた中国を舞台にしているが、当時の現地の実情、歴史を踏まえた日中関係なども織り交ぜて国際課税の問題が語られており、興味深い。日中関係が厳しい今だからこそ読む価値があると考える。

難しいといわれる国際課税の問題を小説の形で興味深く読ませる筆者の文才には感心するが、本書を通じ多くの人に国際課税と国際的租税回避に興味をもってもらい、国際課税に関する理解が深まることを期待したい。

(東亜大学教授 元税務大学校長・藤井 保憲)