[全文公開] アングル GAFAによる課税のがれ~今回はアップルが対象~
税理士 川田 剛
▶はじめに
これまでこの欄でも何回か取り上げてきたように、GAFAMに代表される巨大IT企業による国際的租税回避行為に対しては、厳しい目が注がれるようになってきている。
それは、「PEなければ課税なし」という旧来型の国際課税概念が、巨大IT企業のビジネスモデルに十分対応できなくなってきていることの証左でもある。
しかし、現行制度の下でも、一定の限度内ではあるが、対応可能である。
そこで今回は先般(2024年9月10日)、ECJ(欧州裁判所)で判決が出されたアップル事案、及び先にフランスで問題となったグーグル事案について紹介する。
▶今回問題となったアップル社のケース
アイフォン等の製造メーカーであるアップル社は、以前本欄でも取り上げたグーグル社と同じように、低税率国(法人税率12.5%)として知られるアイルランドに製造拠点を置き、そこからEU諸国を始めとする諸外国に輸出をしていた。しかも、同国から輸出企業に対する特典を付与されていたことから実質的な税負担はそれよりもさらに低い0.005%だった。
これらの行為に対し、2016年、欧州委員会は、約130億ユーロの追徴課税を指示した。しかし、アイルランド政府がこの指示に従わなかったため、EU委員会が提訴、2000年、下級審である一般裁判所で課税処分が取り消された。
そこで、同委員会がECJに上告、2024年9月10日、欧州司法裁判所(ECJ)で、アイルランド政府による同社への税制優遇措置は違法である旨が明らかにされた。
この判決については、マスコミ等でも大きく取り上げられたので、ご承知の方も多いと思われるが、今回の決定は最終的なものである。
(注)ちなみに、アップル社は、今回の訴訟に備え、エスクロー口座に同税額相当分(130億ユーロ:約2.1兆円)を預託していたが、今回の判決結果により、その分を放棄することになる。
今回の判決に対し、アイルランド政府は次のようなコメントを発している。
「アイルランドとしては、いかなる企業や納税者に対しても、税制上の特典は付与してこなかった。」
また、今回の判決に対し、アップル社は「失望している。」と述べるとともに、「欧州委員会がアイルランドで課税されるべき利益については、米国政府に200億ドル以上支払っている。」とのコメントも出している。
グーグル社のケース
以前のこの欄でも紹介したように(Vol.40 No.8)、グーグル社も、アップル社の場合と同じような低税率国であるアイルランド子会社を利用し、そこを通じてEC諸国を始め、各国から「コスト+8%相当額の手数料」を徴収していた。
それらに加え、オランダに別途設置した「パテント管理会社」にライセンス料を支払うという形で、基本的にどこの国でも税金を払っていなかった。
それに対し、フランス政府がPE認定を行って課税し争いとなったが、下級審の段階では、敗訴となっている。
その後、最高裁(行政裁判所)で和解となり、実質的に当局の課税(VAT:約4億ユーロ、法人税:約1億ユーロ)が認められた形とはなっている。ただし、勝訴判決ではなかった。
アマゾン社のケース
なお、ECJでは、アップル社と同じ時期にアマゾン社のケースについても判決が下されている。
今回ECJで取り上げられた同社の事案は、税金に関するものではなく、独占禁止法違反に関するもので、自社のショッピングサイトに顧客を誘導したとして、約24.2億ユーロ(約4000億円)の制裁金を課した処分がそのまま認められている。
(参考1) アップル社の租税回避スキームのイメージ
中間にオランダをかませたいわゆる"ダブル・アイリッシュ with ダッチ・サンドウイッチ"スキーム
(参考2) グーグル社の租税回避スキームのイメージ(フランスで問題となった事例から(2020年8月号))
※基本的にアップル社と同じスキーム