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[全文公開] 書評 矢内 一好 著『日本・租税条約発展史~基本的な考え方と実務対応~』(2024年7月11日刊/中央経済社)

松蔭大学教授・専修大学名誉教授 博士(商学)・税理士 柳 裕治

( 85頁)

租税条約については、1928年の国際連盟モデル租税条約以降約100年近く経過し、事業利得の課税要件である恒久的施設(PE)要件が見直され、デジタル経済の発展等の状況下における課税要件の変化によりネクサス原則が出現するという重大な転換点を迎えている。このような経済のグローバル化・デジタル化による国際税務の変化の中で、本書の出版は時宜を得たものである。

本書の内容は、2部構成で全24章からなる。第Ⅰ部 租税条約の基礎理論は、第1章 国内法と租税条約の適用関係、第2章 事業遂行要件とネクサス原則、第3章 OECD承認アプローチ(AOA)の意義、第4章 帰属主義の意義、第5章 租税条約の適用拡大、第6章 第三国所在のPEに関する濫用防止、第7章 金融口座情報自動的交換制度等の国際的合意の法的根拠、第8章 デジタル課税の租税条約への影響、第9章 今後の租税条約の方向性である。第Ⅱ部 租税条約の実際は、第10章 租税条約における居住者規定、第11章 租税条約と事業体課税、第12章 帰属主義への改正、第13章 サービスPE創設の意義、第14章 特殊関連者条項の意義、第15章 利子所得条項の多様性、第16章 FIRPTA税制と不動産化体株式の課税、第17章 給与所得の短期滞在者免税の適用、第18章 芸能人・運動家条項の変遷と適用、第19章 租税条約における仲裁規定、第20章 国際的徴収規定の進展、第21章 租税条約における匿名組合規定の背景、第22章 LOB(特典制限条項)の生成と発展、第23章 日米租税条約に係る米国側の技術的説明、第24章 相続税租税条約の締結促進とその役割である。

本書の特徴は、租税法律と租税条約の性格と適用関係の基礎的解説から始まり、二国間租税条約、多国間租税条約、OECDモデル租税条約の具体的適用について、沿革も含め平易に説明されていて、理解しやすいことである。

著者は、本書の刊行に至るまで、国際税務・租税条約に関する書物・論文を数多く発表している。このような研究を基礎に、本書は、日本における租税条約について、過去・現在・未来の観点から問題点と情報を整理し、著者独自の視点から理論のみならず実務もあわせて解説した研究書であり、研究者ばかりでなく実務家にとっても必読の書ということができる。今後、国際税務を再検討する際にも重要な書物となると確信している。

(評者:松蔭大学教授・専修大学名誉教授・博士(商学)・税理士 柳 裕治)